双子の死霊術師 ~十年前に死んだ魔術師だけど、今はアンデッドになって妹の使い魔やってます~

笹塔五郎

第1話 魔力補給

「さあ、姉さん……今日も魔力補給の時間ですよ」


 ――ベッドの上。

 少女――ローナ・アウオルスは自分と同じ顔の少女が迫ってきて、ただ困惑していた。

 否、正確に言えば同じ顔ではないが、他人から見ればかなり似ているらしい。

 栗色の髪で、眼前の少女の方が少し長い。

 顔立ちは似ているが、やや幼さを感じられるのは、やはり彼女が実の妹――ネリル・アウオロスだからだろう。

 実際、ローナからしても、鏡を見ているような気分である。


「ちょっと、ついこの前したばかりじゃない……!」


 視線を逸らしながら、ローナは答える。

 すると、ネリルはくすりと笑みを浮かべた。


「姉さんには必要なことなんです。それに、キスくらい減るものじゃないですから」

「あ、あなたの魔力が減るでしょ!」

「姉さんのためなら、魔力なんて全部上げてもいいくらいです。ほら、もう抵抗しないで」


 いくら言っても、ネリルは止める気配がない。

 彼女の言う通り、確かにローナには魔力が必要だ。

 何故なら、ローナはネリルの使い魔であり――彼女の『死霊術』によって動いている『アンデッド』なのだから。

 ローナも生前は魔術師であり、自身の体内の魔力量くらいは把握できている。

 ネリルが必要以上に魔力供給を行おうとしていることも分かっているが、それを強く拒否できない理由もある。


「……んっ」


 結局、迫られて押し倒されるような形になって、ローナとネリルは口づけを交わす。

 指を絡ませるようにして、少しだけ身体が緊張して強張るが――少しずつ魔力の供給が行われ始めた。

 ローナは十六歳で、妹のネリルも今年で十六歳。

 そっくりな二人はまるで双子のようであるが、実際には――十歳の歳の差があった。

 その理由は単純で、ローナが亡くなったのは十年以上前であり、ネリルが死霊術師になったのがそれから十年経った後だからだ。

 少しだけ長いキスを終えて、ネリルはローナの耳元で囁くように言う。


「……ずっと一緒にいてくださいね、姉さん」

「うん、分かってるよ」


 妹が死霊術師になったのは、ローナの死が原因だ。

 明らかにネリルはローナに依存している――十年前、妹にとって姉であるローナは憧れの存在であった。

 ローナは、そんなネリルの憧れであり続けようとして、魔術師としての仕事に精を出し、そうして――命を落とすことになる。

 だから、ネリルがこうなってしまった原因もローナにあるのだと、自覚しているのだ。

 ネリルにとってローナはたとえ――アンデッドであっても必要な存在であり、彼女が必要とし続ける限り傍にいようと、誓ったのだ。


   ***


 十年前――ローナ・アウオルスは『魔術協会』に所属する魔術師であった。

 魔術協会は多くの魔術師が所属する組織であり、また信頼の証でもある。

 協会に所属する魔術師なら、と仕事を受けることができるのだ。

 そんな魔術協会に弱冠十六歳という若さで魔術師として活動していたローナは、若手のホープとされていた。

 実際、彼女が所属を始めたのは十五歳であり、最年少とはいかないまでもかなり早かったのは違いない。

 ローナに負担がかかっているのでは、と一部では心配する者の声もあったが、彼女はいつも元気そうに「大丈夫!」と笑顔で答えていた。

 ――そんな彼女が殺された当時は、やはり魔術協会内でも大きな事件として扱われた。

 犯行は夜。戦った痕跡もあったが、最初に受けた一撃が致命傷になったのだろう――魔術師は、教会に所属する正規の魔術師以外にも非合法的な魔術師が存在している。

 そういう者達を取り締まるのもまた、魔術師の役目であるが、ローナもまた、そういう仕事を始めて少し経ったばかりの頃だった。

 私怨の可能性も高く、ローナが担当していた事件の調査は当然行われていたが、結果的に犯人を見つけることはできず、事件についても迷宮入り。

 遺体は、唯一の肉親である妹のネリルに引き渡された。

 両親はおらず、身寄りのない彼女はまだ六歳で、ローナの遺体をきちんと葬ることができるはずもない。

 魔術協会は遺体を火葬するつもりであったが、


「……お姉ちゃんを、このままにしておくことはできないんですか?」


 およそ、六歳の少女が辿り着いた答えとしては、あまりに想定外のこと。

 その瞳に生気はなく、年齢も考えれば強すぎるショックから出た言葉の可能性も高い。

 だが、遺体の保存を申し出たことで、魔術協会でも議論されたが――未解決の事件であることも踏まえ、遺体を魔術による冷凍保存維持が行われた。

 ――十年後、その遺体がネリルによって生者に限りなく近い形でアンデッドとして使われることになるとは当時、誰も予想していなかったことである。

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