第7話 剣術師

 ローナの役目は足止めだ。

 視界に入った『合成獣』は先ほどの三つ目の狼の他にも、腕の複数持つ猿や、口元が二つある蜥蜴など――明らかに通常の魔物とは異なるものばかり。

 ローナの基本戦術は土の魔術による防御からの反撃――カウンター特化だ。

 相手の攻撃を見てから、状況を見極めるのは難しい判断の迫られることも多い。

 だが、相手が複数――それも魔物に加えて、もう一人魔術師のいる状況では下手に動けない。

 何やら考えのある様子だったネリルだが、ローナの後方に構えて動く気配はない――状況を静観しているようだが、このままではジリ貧だ。

 ローナの魔力だって、無限ではない――


(……! 待って、私の魔力って……)


 アンデッドという状態であるからには、魔力供給があるはずだ。

 だが、当然のごとく魔力は無尽蔵にあるわけではない。

 ローナは目覚めてから、一度も魔力が回復しているという感覚はなかった――つまり、このままでは確実に押し切られる。

 ローナはすぐ戦法を変えることにした。

 魔力を少量で、確実に敵を倒すために、撃ち放ったのは水の弾丸。


「! ほう、二つの属性を操るか」


 グイラが感心するように呟く。

 魔術における基本的な属性は四つ。

 火、水、土、風――それらを効率よく扱うのなら、一つに特化した方がいい。

 かつ、人にはそれぞれ得意とする系統がある。

 死霊術はこれらに該当しないもので、あくまでこれは属性という分類をした場合に限るが。

 ローナは二つの属性を得意とする魔術師であり、扱うのは水と土だ。

 人よりも努力を必要とするが、両方扱えれば――当然、魔術師としての幅も広がる。

 水で作り出した弾丸は、的確に『合成獣』の頭を打ち抜いていく――が、彼らは動きを止めない。


(……! 脳がそこにあるわけじゃないってこと……!?)


 『合成獣』の最大の利点とでもいうべきか。

 生物であれば、おおよそ脳の位置などは特定できるが――『合成獣』はそれを自由な位置に組み替えられる。

 弱点の位置を変えている、というわけだ。

 やがて、ローナの魔力が減少し――土の壁の質が低下すれば、自ずと壁は壊される。

 その最後の一撃を加えたのは、グイラ本人であった。

 ネリルの前に立ち、勝ち誇った顔で宣言する。


「先ほどから動かないところ見るに……お前はこいつを動かすので手一杯のようだな」


 こいつ――ローナのことを指しているのだろう。

 それはそうだ、死霊術の中でも、ローナほど人間に近いアンデッドを使役するとなれば、負担の大きさは想像もつかない。

 どうして、こんな簡単なことに気付かなかったのか。

 ネリルは先ほどから戦いに参加しないのではなく、ローナを使役しているからできないのだ。

 すぐにネリルを守ろうと動くが、ローナは簡単に『合成獣』に押さえられてしまう。


「心配するな。殺すつもりはない――手足を引きちぎって、お前の死霊術について、少しばかり情報を引き出させてもらうだけだ」

「ネリル……っ! 逃げ――」


 だが、最後まで言い切る前に、ネリルが動く。

 グイラの腕を、ネリルが剣で斬り飛ばしたからだ。


「な……っ!?」

「正解ですよ、私が姉さんを使役しているから、他の死霊術や魔術はほとんど扱えません。だからって、そんな分かり切った弱点を――補わないと思いますか?」


 ネリルが構えたのは、一本の剣であった。

 見れば、飛ばしたはずのグイラの腕は、まだ繋がれている。

 出血すらもしておらず――飛んだように見えたのは、錯覚だったのか。

 だが、だらん、とグイラの腕が脱力する。


「これ、は……!」

「ええ、あなたの魂を斬り飛ばした――とでもいいましょうか。腕の感覚が、もう残っていないでしょう? 種明かしをすると、私は『剣術師』でもあるんです」


 剣術師――剣術も合わせて扱う、魔術師の総称だ。

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