第8話 『双子』の死霊術師
「こ、の――」
気付いたグイラは、すぐに後方へと下がろうとする。
だが、一歩踏み出して、ネリルはグイラに剣を振るった。
再び、身体の一部が飛んだような幻影が見えるが、それはグイラの魂を斬り飛ばしたもの。
すぐに『合成獣』達がネリルへと迫るが、その全てを斬り伏せて――ネリルはグイラの首元に剣を向けた。
「もう動けないでしょう? あなたはこれでお終いです」
「……油断した、というべきか」
「いいえ、私があなたの油断を誘いました。私が死霊術師で、本体が弱く、居場所が分かっていながら単独でやってくるような愚か者――あなたはそう判断したから、今の状況にあるんです」
「否定もできない。だが、捕らわれるくらいなら――」
グイラが何かしようとして、ネリルが首に剣を振るった。
「自身の身体も改造していたみたいですね。ですが、魂を斬ってしまえば、誰であれ関係はありませんよ」
そのまま、グイラは脱力して動かなくなる――おそらく、死んだのだろう。
呆気に取られたまま、ローナは改めて、ネリルの成長を実感すると共に、ある事実に気付く。
「ちょ、殺しちゃったらまずいでしょ!? 条件は捕らえることだって――」
ローナは立ち上がろうとするが、身体の自由が上手く効かない。
すでに、残っている魔力の量が減っている――それは、ローナ自身が、アンデッドであるが故の弊害だった。
魔力がなければ、アンデッドは満足に動くこともできないのだ。
そんなローナの前にネリルがやってくると、間髪を入れずに口づけを交わす。
「……? ……っ! ちょ、何をして……!?」
慌てて突き放すと、ネリルは満足げな表情をしながら、言う。
「説明していませんでしたね。姉さんはアンデッドであり、私の使い魔です。今のは、魔力を供給するために必要な行為」
「きょ、供給に必要って……キスだったじゃん!」
「ええ、そうですよ。私と姉さんを繋ぐのに必要なのは――口づけです。アンデッドの使役において、より厳しい制約を使うことで、死霊術は確固たるものとなります。これは、私と姉さんの制約であり、私達を繋ぐための儀式。だから、姉さん――もう一度、ね?」
「ちょ、ちょっと、待――」
止めようとするが、まだ身体に力が入り切らず、ローナはネリルに身を任せる形となった。
こうして、二人の初めての共闘は終わったが――同時に、失敗という形になる。
何故なら、条件として掲示されたはずの『二十四時間以内に魔術協会が定める規定に違反した者を捕らえる』べき相手を、殺してしまったのだから。
***
「姉さん、魔力供給は常に必要ですよ。私達は常に強敵と戦う必要があるんですから」
――そんな、初めての戦いから半年。
ローナとネリルは、魔術協会の恩赦を受けることになった。
当然、条件を満たせなかったのだから、初めは処罰されることになったのだが――ネリルはどこまでも抜け目がない。
グイラの発していた、『我々』という言葉を見逃さなかったのだ。
「禁忌に手を染めた者が徒党を組んでいます。私達は、そんな奴らをこれほど早く始末して見せました。どうですか? 私と姉さんなら、これからも役に立つと思いますが」
これから処刑を前にしているとは思えないほどに、勝ち誇った顔で。
そこには記憶にある可愛らしい妹はもうそこにはおらず――ネリルが、どこまでも邪悪に見えてしまった。
けれど、そんな姿を見せるのは、交渉の場だけであり。
ローナの前では、むしろべた惚れといった雰囲気だ。
「いや、私も魔術師だから感覚は分かるよ。魔力は減ってなかったから、キスの必要はなかった」
「そんなつれないこと、言わないでください。姉さんとはいつだって、繋がっていたいんですから……」
どうして、ネリルはこうなってしまったのか――それは、ローナが死んでしまったから。
だから、ローナはネリルの傍にいることを誓う。
それが、自身の罪であると自覚しているからだ。
「知っていますか、姉さん。私達、最近『双子』の死霊術師として話題だそうですよ。私、姉さんに顔が似てきているのが、とても嬉しいんです。姉さんと同じになれることが、とっても」
――果たして、この成長した妹と今後も上手くやっていけるのか、ローナは不安に駆られながらも、今日も彼女の使い魔としての活動を始めた。
双子の死霊術師 ~十年前に死んだ魔術師だけど、今はアンデッドになって妹の使い魔やってます~ 笹塔五郎 @sasacibe
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