第6話 共闘

「……手を組む?」

「君達は魔術協会に捕まった――そうだろう? だが、僕はまだ捕まっていない。なら、お互いに追われる者同士、手を組んだ方が合理的だとは思わないか?」

「私達にはこれがありますから」


 ネリルは首輪を指して、言う。

 グイラとは違い、ローナとネリルはすでに魔術協会側と交渉をして、こうして禁忌に手を染めた魔術師を捕らえに来たのだ。


「僕ならそれを外せる。実際、試したこともあるからね」

「……外せる? これを?」

「ああ、そうだ。魔術協会の魔術など、我々からすれば大したものではない。どうだろうか、交渉の余地はあると思うが――」

「ダメよ、そんな話は聞けない」


 グイラの言葉を遮ったのはローナだ。

 だが、グイラはローナを見る気配もなく、ネリルに訴えかける。


「君も愛する人を救いたいのだろう? 僕は――恋人を『合成獣』に使っている。蘇らせたいんだ」

「確かに、このままあなたを捕まえたとしても――許される保証はどこにもないですね」

「! ネリル……!」


 ローナはネリルに呼びかけるが、彼女の視線はグイラへと向いている。


「グイラさん、もしかして私に以前から気付いていましたか? 気付いていて、あえて逃げなかった、とか」

「どうかな。少なくとも、僕のことを嗅ぎつけた人間がいることには気付いていた。だが、逃げる必要はないと判断した」

「それはどうして?」

「僕は鼻が利く方でね。同類のことは分かるんだ――禁忌に手を染めた者が、真っ当に生きようとするはずがない。魔術協会に縛れるような生活を、君も望まないだろう?」

「なるほど――では、私の答えをお見せしますね」


 ネリルはそう言うと、地面に転がっていた『合成獣』の首に再度、剣を突き刺して――今度は縦に割った。

 グイラの表情が、鋭いものへと変わっていく。


「……なるほど、断るということか」

「ええ、もちろん」

「念のため、理由を聞いておこうか」

「単純なこと。私は姉さんのために死霊術師になって、姉さんを完全な形で蘇生させたいと考えています」

「だとするのなら、我々と共に――」

「いいえ、あなたの愛する人などどうでもいいんです。姉さんとの逃避行も悪くないんですが、それはきっと――姉さんが望まないでしょう?」


 ようやく、ネリルがローナに視線を向けた。

 彼女の言葉を受けて、ほっとする気持ちが強かった。

 ネリルは変わっていても、魔術協会を捨てて――禁忌に手を染めて悪の道を進み続けることを良しとしているわけではない。

 それが分かっただけでも十分だ。


「……そうか。なら、これは僕の判断ミスだな。君達と顔を合わせたことは」

「ええ、そうですね。鼻が利くと言っていましたが、新しく作り直すことをオススメします。『合成獣』を作れるのなら、それくらい簡単なことでしょう?」

「やれやれ、安い挑発ばかり繰り返す小娘だ。どうあれ、こちらにつかないと言うのなら――ここで消すしかあるまい」


 言葉と共に、森の奥地から複数の気配。

 姿を見せたのは、三つ目の狼だけではない。

 いずれも、この辺りでは見たことのないような魔物ばかり。


「これは……『合成獣』……!」


 ローナはすぐに、ネリルを庇うように前に立った。

『合成獣』はその性質上――合わせた魔物によって系統が変わってくる。

 すなわち、初見での対応は難しい。


「姉さん、なるべく私を守るように立ち回ってもらえますか?」

「もちろん、そうするつもりだけど……作戦はあるの?」


 そもそも、ネリルがどこまで戦えるのか――思えば、死霊術師であること以外には情報を持っていない。


「ご心配なく。ここで負けるようなら――端からこんな方法を、取るつもりなんてありませんでしたら」


 ネリルは何やら含みのある笑みを浮かべる。

 ――姉妹で初めての、共闘が始まろうとしていた。

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