エピローグ

 妖怪の町の、鬼ラーメンというラーメン屋さんには、看板娘がいる。

 可愛くてキレイな、看板娘が……。


「自分で可愛くてキレイって言うなよな。ふざけてないで、ラーメン運べ」

「もう、ちょっと言うくらいいいじゃないですか」

「そうだそうだ。まさかコウキくん、サオリちゃんのことを可愛くないとか言うつもりじゃないだろうねえ」

「サオリちゃん。コウキくんに何か言われたら、すぐにあたし達に言うんだよ。味方になってあげるから」


 夜のにぎわう時間帯。

 私の言った冗談を怒るコウキさんから、常連客の皆さんがかばってくれる。

 鬼ラーメンで働きだしてから一年。今ではもうお馴染みの光景。

 コウキさんも、すっかりいじられキャラが板についてる。

 コウキさんって顔はいいのに、今一つイケメンになりきれてないんだよねえ。


「それにしても、サオリちゃんもこっちに来た頃より、ずいぶん変わったよね」

「え、そうですか? 自分じゃよく分からないですけど、どんなところが変わりました?」


 コリンさんの問いについ返しちゃったけど……いけない、太ったなんて言われたらどうしよう。

 こっちに住むようになってから、コウキさんの作るご飯が美味しいもんだから、ついおかわりしてしまって。体重増加中なの。

 で、でもそんなに太ってるわけじゃないよ。この前だって体重計に乗ってショックで固まってたらコウキさんが、元が痩せすぎだからまだ足りないくらいだって言ってくれたし。


 するとコリンさんは。


「よく笑うようになった、かな。こっちに来たばかりの頃は戸惑ってたのもあるだろうけど、元々笑い方を忘れてるんじゃないかってくらい、表情が死んでたものねえ」

「ええっ!? 私ってそんなだったですか?」

「うん。だけど今は、本当によく笑うよ。これもコウキくんのおかげかな」

「……オレは何も。コイツに給料払って、飯食わせてるだけだ」


 コウキさんは素っ気なく言ったけど、耳が赤くなってるのを私は見逃さなかった。

 ふふっ、コウキさんって本当に分かりやすいんだから。

 ぶっきらぼうに振る舞おうとしても本当は照れ屋で優しいってこと、ちゃんと知っていますよ。


「コウキさん。今夜もラーメン、食べさせてくださいね」

「分かったよ。お前ほんとラーメン好きだな。まあ、職人としては嬉しいけどな。腹へって倒れられても困るから、しっかり食べろよ」


 ほら優しい。


 ふとしたキッカケで始まった、妖怪の町での共同生活。

 だけどそれはどん底にいた私にとって、幸運そのものでした。



 私はこれからも、この町で生きていく。

 この後正体を隠してるつもりのコウキさんと私は、預かったと言いはってキツネの半妖の子供を育てることになるのだけど。それはもう少し先のお話です。




 おしまい♪

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妖怪のラーメン屋さんにいらっしゃい ~どん底女子と妖店主のときめき同居~ 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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