序章:砂漠の義賊と護送の荷
1ページ目 砂漠の義賊
チラホラと単在する大岩以外、視界は一面砂ばかりの砂漠の平原。
この広大なフロアを砂煙を上げて駆ける一台のラクバ車。
最初に異変に気づいたのは荷台に居た男だった。
「‥‥! 何か来る。」
男は風の流れが変わったコトを察したのだ。
異変を察知した彼は、呑気に談笑していた御者台のふたりに声を掛ける。
「何か来るぞっ、警戒しろっ。」
「え?」と御者のひとり、助手席の男が後ろの荷台=声を掛けてきた男を見ようと振り返ったときだった。
自身の左手の方向、遥か彼方に黒い塊があるコトに。その黒点は徐々に大きくなっていた。
男はすぐ黒点が大きくなってるのではなく、こちらに近づいているのだと自身の認識の間違いに気づく。
近づいてきたコトによって黒点は翼を広げ、その上に白い布を載せているというシルエットを確認出来た。
否、布の塊は人だった。
黒褐色の小柄なドラゴンが地面スレスレで滑空し、人を乗せてこちらに接近しつつあるのだ。
ここまで脳が認識した時点でようやく運転手は声を上げる。
「とっ! 盗賊だぁぁぁぁぁ!!」
「正解🎵」
呟いたのはドラゴン=ノーヴァの背に跨がる少女。
運転席の男が叫んだコトであとのふたりも左手から迫るドラゴンに気づく。三人の視線が彼女に集中し、ラクバ車の三人が彼女を認識した次の瞬間、
「「!?」」
フッ、とドラゴンの背から彼女の姿が消えた。
「落馬したのか?」と運転席と助手席の男は身を乗り出してドラゴンに注目する。
が、次の瞬間思わぬところから声が響く。
「巷で噂の砂漠の盗賊というのはお前か?」
声はふたりの頭の上から聴こえた。聞き覚えのある男の声だ。
「へえ‥‥‥アタシに剣を突きつけて来たヤツなんて久々だよ。やるねえ。」
今度は聞き覚えのない女の声だった。
いったい何がどうなってるのか。助手席の男は乗り降りするためのドアについている窓から身を乗り出し、上を見上げる。
そこには驚く光景が広がっていた。
────────────
少女=オランジェはノーヴァの背から跳躍すると、走っているラクバ車の運転席の屋根に跳び移ったのだ。
重力を感じさせない着地でフッと跳び移った彼女だったが、次の瞬間、喉元に剣を突きつけられていた。
「巷で噂の盗賊というのはお前か?」
このアタシに気配を感じさせないなんて‥‥‥と内心驚いたオランジェだったが、気取っているコトは表に出さず、余裕のある声色で言葉を紡ぎ出す。
「へえ‥‥‥アタシに剣を突きつけて来たヤツなんて久々だよ。やるねえ。」
「出来る‥‥‥」とオランジェはこの男を評価した。
ノーヴァの背からこのラクバ車に跳び移った挙動を見逃さず、アタシが何処に着地するのかも見越して、自らの気配を消しながらアタシに気づかれない素早さで近づき、剣を鞘から引き抜きアタシに突きつける。
これらの動作を流れるように、揺れるラクバ車の上でこなした。
「やるねえ。」と感心していると、
「質問に答えてもらおう。」
男は剣の刃を返し、少女に更に近づける。
「これは失敬。確かに質問には答えてなかったな。そう、世間で評判の存在‥‥‥
【
「さぞく‥‥‥?」
聞き覚えのない単語に、男は眉をひそめる。
「”砂漠”の”義賊”で【
───誇り高き”砂漠の存在”の称号さ!」
「っ!」
少女‥‥‥オランジェが自身の言葉を言い切るか否かのタイミングで彼女は動いた。
体をその場で回転させたかと思うと、
キンッ!
という金属音と共に男の手に衝撃が走る。
オランジェに向けていた剣に何かがぶつかり、衝撃が走ったのだ。が、そこは流石の挙動。男は彼女が何かをすると構えており、腕は打ち上げられたが剣を手放すことはしなかった。腕を打ち上げられた衝撃は殺さず、男は───
男もその場で回転し、体勢を建て直す。
互いにその場を一歩も動かず、互いにその場でターンしただけの数瞬。空気が変わる。
男は剣を構え女を見据える。
女も剣を構え、男と向き合う。
そう、オランジェはあのとき、ターンしながら白マントの下に隠していた、後ろ腰に差していた得物を取り出し、男の剣を弾いたのだ。
戦闘態勢を取る両者。互いに得物は剣。
違いは男がバスタードソードと呼ばれる長剣なのに対し、女はサイフと呼ばれる湾曲刀であるコト。
そして、男が片手で構えるのに対し、女は両手それぞれに一本ずつ持ち相対したコトであった。
一刀流対二刀流。
狭い足場で、間合いの広いバスタードソードが有利なのか。
はたまた、刃渡りの長さはバスタードソードに負けるが、その分二刀流という手数で勝るサイフが有利なのか。
どちらに軍配が上がるかは使い手の力量次第‥‥‥
「以後、お見知りおきを。」
オランジェがスカーフで隠した口元に不適な笑みを浮かべたのと、男が動き出したのは同じタイミングだった。
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