紙魚の栞

染谷市太郎

紙魚の栞

 知人から紙魚の栞をもらった。

 あの紙を食べてしまう紙魚が描かれた栞だ。

 読書家の私にとっては天敵だが、栞という紙切れにインクで描かれた紙魚はどことなく愛嬌がある。

 少し気に入ってしまった私は、紙魚の栞を本に挟み本棚の一員とした。


 数日後、「知人からあの紙魚の栞はどうしている」と聞かれた。

 どうしているもなにも、栞なのだから本に挟まっている。

 そう答えた私に、「知人はたまには外に出してやれ」とにやにやした。

 ずいぶんと愛着があるのだな。そう思いつつ栞を挟んだ本を開くと、そこには真っ白なページが広がっていた。

 なんと紙魚の栞を挟んだ本がどこも虫食いのように文字が消えていた。これではまともに読めないではないか。

 あわてて周辺の本も探ると、知人に貰ったものよりも二回りほど小さな紙魚の栞が何枚も出てきた。

 繁殖しているではないか。

 しかも本はどれも文字が虫食いになっているではないか。

 してやられた。

 あの知人は、いたずら好きであることを失念していた。

 怒りの抗議を入れたところ、「本棚の近くに新鮮なインクを置けばいい紙魚の栞は勝手に溺れて一網打尽だ」と知人は笑った。

 まったく、なんて他人事だ。今度はこちらから本物の紙魚でも届けてやろうか。

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紙魚の栞 染谷市太郎 @someyaititarou

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