本編

第1話「戦火の歌姫」

「遅刻遅刻~!!!」


その茶色いポニーテールをたなびかせ、食パン咥えて走っているのは、今日が転校初日のリリィ・アケザワ。

性格は明るくて真面目で正義感が強い、フランス生まれで母が日本人、父がフランス人のハーフである。

母の様な大女優を夢見て日本の演劇の名門であるエデン女学院に向かっていた。

かくしてリリィは転校初日に遅刻する事に…なるはずだった。


ブォ~!


リリィが正門に来た所でけたたましい警報音が鳴る。


「何!?なんなの!?」


リリィが空を見上げると無数の飛行物体と自衛隊らしき戦闘機が戦闘を繰り広げている。

戦闘機の方が数が多かったがなんらかのバリアで攻撃が遮られしまい、全く効いていない。

今度は複数の戦闘機から多数のミサイルが発射される。

ミサイルは敵機に直撃し大爆発を起こした。


「やったか?」


自衛隊の戦闘機パイロットが呟く、しかし現実は非情である。

黒煙の中から敵機から発射されたレーザー光線で戦闘機達は爆発四散する。

黒煙が晴れるとUFOの様な円盤に手足の生えた様な機械が現れる。

その機械の目らしきモノアイは観察するように周囲を見渡している。

その非日常的な光景を目にしたリリィはその場から動けないでいた。


「そこの君!早く逃げるんだ!」


そうリリィに呼びかけたのは自衛隊の戦車だった。

しかしその戦車もあっという間にやられてしまう。


「だ、誰か…」


戦車の近くには女生徒がいて瓦礫に下敷きになっている。

運よく隙間が出来て身体は無事な物の抜け出すのは不可能だった。


「待って!今助けるから!」


リリィはありったけの力で瓦礫を持ち上げようとするがびくともしない。

大の大人の男4人がかりでようやくといった代物である。


「もういいわ…、私を置いて逃げてよ…」


瓦礫に埋まったおさげの少女は諦めた様に死を決意した声でそう言った。

しかしリリィは諦めようとしない。


「もう誰も!死なせたりしない!」


リリィは事故で死んだ亡き母を思い出していた。

そしてその時の自分の悲しみも。


バンバンバン!


空でけたたましい爆音が響く。

そして一機の敵機であろう機体の銃口がリリィ達の方を向く。

そして銃口から光が放たれリリィ達に直撃する刹那であった。


ズドーン!


大型トラック位はあろうサイズの円柱上のタンクに手足が生えた様な人型?の赤と白のロボットが壁になりその一撃を防いだ。

胴体の中心に付いた十字に動くモノアイがリリィの方を見ている。

その落下物はまるで自分に乗れと言わんばかりにその身体の前面を展開した。


「あんたに乗ればいいのね?」


機体に乗るとまるで服を着るかの様に手足を通し機体に身体を装着する。

ロボットの動かし方なんて分からないはずだが手足を動かすとその通りに機体は動いた。

そして機体は拳を握ると目の前の敵機をバリアごと殴りつける。


ジーン!


まるで固い壁を殴った様な衝撃がリリィの拳に伝わる。


「もしかしてこの子…弱い!?」


「それはあなたが真の力を引き出してないからよ!」


「え!?」


突然女性の声が機内のスピーカーから響く。


「も、もしかして自衛隊の人ですか!?私じゃ無理です!どなたかと代わって…」


「なま言ってんじゃないわよ!それに私はAIよ!」


「えーあい?」


「ああもう!いいからそこのヘッドセット付けて歌いなさい!選曲は私がしといてあげる!」


「へっ?」


あっけにとられているリリィだが、後ろを振り向くとそこには瓦礫に埋まった少女がいた。


「迷ってる暇は…無い!」


「キーの変更はしなくていいわね?それじゃあ一曲よろしく!」


「これって…!?」


モニターにカラオケの如く映像と歌詞が表示される。

謎のAIの選曲した曲は洋楽でもJPOPでもない…かなり昔のロボット物のアニソンだった。


「その魂、勇気に変え~て~」


リリィがその澄んだ歌声で歌を歌うと不思議と力が湧いてきた。

リリィは再び拳を握ると敵機に殴りかかる。

今度は見事バリアを貫通し敵機を殴り飛ばした。

吹っ飛んだ敵機は一撃で爆発四散した。


「う~ん、カ・イ・カ・ン♡」


感慨に浸る謎のAI、その一方でリリィは自分のやったことに衝撃を受けていた。


「嘘…これ私がやったの?」


「そうよ、これこそ歌と踊りと演劇が生み出す無限の力”プレリュード・システム”」


「プレリュード・システム…歌なら得意だし何とかなるかも!」


「その調子よ、リリィちゃん!」


「(え?私名乗ったっけ?)」


「ああ、私の名前はあけ…じゃなかった。AKちゃんってよんでね」


「よ、よろしくお願いします。あ、そういえば瓦礫の少女を助けないと」


「何そのマッチ売りの少女みたいな響き」


「冗談言ってる場合じゃないんですよ。早く助けないと」


リリィは心配そうに後方確認をすると瓦礫の少女が無事なようでほっとした。

例の曲を歌いながら慎重に瓦礫をどかしていく。

歌う前はかなり重かったのに、歌い出したら発泡スチロールの様に軽く感じた。

どうやら歌の力がこの機体の動力源らしい。


「あ、ありがとう。あなたの名前は?」


瓦礫に埋まったおさげの少女がリリィに尋ねる。


「リリィ・アケザワ、転校生だよ」


「ふーん、私は如月さやか。プレリュードのオペレーターよ。あなたRS<リリィ・スレイブ>の操縦者だったなんてね」


「プレリュードっていうのはさっき聞いたような気がするけど、RSって何?」


「「・・・・・・」」


「そろそろいくわよ!リリィちゃん!」


「え!?ちょ、ちょっと!?」


AKが静寂を破る様に一声掛けると機体は背部のスラスターを吹かし空高く飛んだ。


「あーもう!こうなりゃヤケクソよ!」


「どこで覚えたの?そんな日本語!」


「日本のコミックで!」


「後で没収よ!」


そんなやり取りを交えながら拳で次々と空中の敵機を撃墜していくリリィのRS。

しかし拳一つではさすがに限界があった。


「何か、何か武器はないの!?」


「武器…はっ!?」


AKは思い出した様にRSを操縦すると背部にマウントされた日本刀を握らせた。


「これこそ必殺剣、リリィブレイ―」


「美しい…サムライソードだわ。これならいける!」


AKの説明を遮る様にテンションを上げるリリィ。


「聞きなさい!私の魂の叫び!」


ドワォ!


赤と白のRSはその空中の軌道上に次々と爆発を発生させていく。

そしてついに敵の母艦らしい巨大戦艦が現れた。


「出たわね親玉!さあリリィちゃん、一緒に必殺技を叫ぶわよ!」


「え?ひ、必殺技?!」


突然のAKの提案に驚くリリィ。

なんだよ必殺技って…というような困惑した表情をしていた。


「ええい、ままよ!歌撃流奥義!一」


「歌撃流奥義!一曲入魂!!」


食い気味に先に言いきってしまうAK。


「(そこは合わせなさいよ…)」


日本刀の刀身が液体金属で巨大化し、その巨大な刀身でズバーン!!と一撃にて敵の巨大戦艦を沈めた。


「やったわね!リリィちゃん!」


「う、うん…うん?」


リリイの前には漆黒のRSがいつの間にか立っていた。

西洋風の槍を構えており、西洋甲冑の様な重厚さを感じさせている。

そしてそのRSから搭乗者が下りて来た。

その少女は紺色のショートヘアで片目を隠している。


「リリィ・アケザワ、ようこそ演劇部へ」


彼女は演劇部の部長にしてRSの戦闘部隊プレリュードの隊長、朝倉京子であった。

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