第5話「声優アイドル」

「ありがとうございましたー!」


「へへっ、いっぱい買っちゃった♪」


日本のアマチュア漫画本、同人誌を秋葉原の某アニメショップで山ほど買い漁ったリリィは、

戦利品の入った買い物袋を両手に下げ家路につこうとしていた。

その時である。


「その鞄もらったぜ!」


「あ、私の!」


財布の入ったカバンが自転車に乗った男にひったくられてしまった。

まさにジャパニーズ・スリである。

リリィは身体能力には自信があったがさすがに自転車には追いつけなかった。

その時である。


「そこまでよ!悪党!」


深々と帽子を被った少女が自転車に立ち塞がった。

このままではひかれてしまうが両者共に引き下がる気は無い。


「邪魔だ!どきやがれ!」


「とうっ!」


自転車が強引に通ろうとした刹那、少女が自転車を避けるように飛び膝蹴りを喰らわした。

自転車に乗っていた男は鞄を落とすとそのまま立ち去って行った。


「はい、これ。あなたのでしょう?」


「あ、ありがとうございま…あ~!!!」


飛び膝蹴りの拍子に帽子が取れ少女の素顔が露わになっていた。

彼女こそ現在大ブレイク中の声優アイドル西崎明日香であった。

肩まで伸びてるはねっ毛の茶髪が元気印な印象を与える。


「あ~バレちゃったか。この件はどうか内密にね?」


「は、はい!」


ふたつ返事したリリィであったが、二人が再会するのはすぐ先の未来であった。


―エデン女学院・部室


「リリィが会うのは初めてだったわよね。彼女は―」


「西崎明日香さんですよね、声優の!」


「あ、ああ…」


部長の京子が引き気味に応える。

日本のアニメの大ファンだったリリィは明日香の大ファンだったのだ。


「あー、君はあの時のひったくり被害者!もしかして君が噂のRSの操縦者?」


「覚えていただけるなんて光栄です!リリィ・アケザワです!」


「リリィちゃんね、覚えたよ」


「相変わらずですのね、明日香さん」


椿がいつもの感じとため息をもらす。

こうして明日香を加えた演劇練習が始まった。

演目は白雪姫である。


「いやぁ、スケジュールが忙しくてあんまり台本読み込んでないんだよねぇ~」


微笑を浮かべながら明日香がみんなに言う。


「何を言ってますの。そう言いながらいつも徹夜してでも読み込んでるでしょう、あなた」


「てへへ、ばれたか」


明日香と椿の軽いやり取りに見えるがリリィには明日香のやる気が伝わっていた。

それでなくとも演劇の名門、エデン女学院の白雪姫の主役なのだ。

練習していない訳がない。

リリィはその明日香の余裕に寒気さえ感じた、その時である。


ウ~!!!!


アンドロメダ襲来のサイレンである。

リリィは前回の出撃を思い出すと指定のトンネルの位置に付いて滑り降りた。


―プレリュード隊・司令室


そこには黒のスーツの京子、真紅のスーツの椿、そしてオレンジのスーツの明日香がいた。


「やっほ~、リリィちゃん」


明日香がリリィに手を振る。

しかし二度目の出撃にガチガチに緊張していたリリィにそれに応える余裕はなかった。


「敵機アンドロメダが東京、渋谷に襲来。各個撃破して」


「りょ、了解!」


どもりながらもなんとか返事したリリィ。

残念ながら今回の戦闘で活躍はできなかった。

代わりに活躍したのが明日香である。

彼女はオレンジのRSを駆り、二丁拳銃と格闘技を組み合わせた華麗な戦闘術で敵を撃破していった。

歌は勿論持ち歌の「アクア・プレリュード」であり、ダンスも独自の振付けの物だった。


「これが私のプレリュード♪」


最後に敵母艦を沈めたのも明日香であった。


そして白雪姫の演目当日―


「姫を目覚めさせるには王子様のキスが必要です!」


はりきって小人の演技をしているのはリリィである。

そして今回白雪姫を務めているのは意外にも椿ではなく明日香だった。


「王子様…」


「姫…」


素の状態とは180度違う人格の明日香の白雪姫と京子の王子。

そしてついでに意地悪な魔女&女王役の椿。

それぞれがはまり役で舞台は大盛況だった。

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