第2話「母の背中を追って」
―エデン学園・学園長室
「わたくしは反対ですわ!あんな素人をエデン女学院の名門演劇部に入れるだなんて!」
「落ち着きなさい、椿」
「京子さん、これが落ち着いていられますか!プレリュード隊だって現状で十分ですわ!」
椿と呼ばれた少女がヒステリックに声を上げている。
それを演劇部の部長である京子が諫めている様だ。
ちなみにプレリュード隊とは演劇部員で構成されるRSの戦闘部隊の総称である。
「黙りなさい、椿。これは学園長命令よ」
別の大人の女性の声が部屋に響く。
大きな声ではないが重厚感のある声だった。
彼女はこのエデン女学院の学園長にしてプレリュード隊の司令官、大河内桜だ。
表向きには今は引退している元大女優で、政財界とのコネもありRS開発の立役者という裏の顔も持っている。
故にこのエデン女学院は政府から特命を受け、RSの戦闘部隊養成学校としての側面ももっており、
他の学校や専門学校、養成所、劇団、芸能事務所を出し抜いて現在の立場に立っているという訳である。
さすが超大御所大河内桜と言った所であろう。
そしてその中でも大河内が特に贔屓にしているのがこの演劇部である。
夫がアンドロメダに殺されたのである、ここまで執着するのも当然だろう。
「…もしかして彼女のお母様の明美さんが関係してますの?」
明沢明美…リリィ・アケザワの母にして学園演劇部の元トップスターでもある。
バタン!
勢いよく扉を開け一人の少女が入って来る。
彼女こそ先程の戦いで大活躍したリリィ・アケザワその人であった。
「母が関係してるんですか!」
そこには黒髪長髪の高飛車なお嬢様、白鳥椿と演劇部部長の朝倉京子、そして白髪のロングヘアの女性、大河内桜学園長がいた。
「廊下で待っている様に言ったはずよ」
大河内が厳しい口調でリリィに言う。
しかしリリィは引き下がらない。
母の死はこれまで事故としか聞かされておらず父も何も教えてくれない。
母の過去も小さい頃に教えて貰った多少の事しか知らないのだ。
リリィが日本に来たのも母の事が何か分かるかもしれないと淡い期待を寄せてのものだった。
「あなたのお母様はこの学園の演劇部のスターだった。そしてプレリュード隊の創設時のメンバーでもあったのよ」
「母がRSに乗って戦っていたんですか?」
あの優しかった母が信じられないと思ったリリィだったが、大河内の真剣な口ぶりからしてそれが真実だと察した。
そしてそうと分かれば言う事は一つしかない。
「私、演劇部に入部します!そしてプレリュード隊にも入隊させて下さい!」
「分を弁えなさいな。素人が親の七光りだけでやっていける場所じゃないんですのよ!?」
間に割って入ったのは椿だった。
彼女は現在の演劇部の花形スタァであり演技も歌も即プロで通用するレベルのトップクラスの逸材である。
当然歌や踊り演技にかなりの情熱を持っている。
故に素人であるリリィがこのハイレベルな名門演劇部に入部を宣言する事に憤慨しているのだ。
しかし更にそこに割って入ったのは部長の京子だった。
「彼女を誘ったのは私よ。だから私にも責任がある。だからここは私に任せて貰うわ」
「京子さんがそう言うのなら…分かりましたわ」
椿が言う事を聞く数少ない人物である京子に言われたら断れない。
先程まで泣き顔だったリリィの顔に笑顔が戻っている。
「よろしくお願いします!椿さん!京子部長!」
「ここの演劇部は演劇だけでなく歌や踊りもありますのよ?あなたに務まるかしら?」
心配してるのを隠しながら嫌味たらしく椿が言う。
エデン女学院の演劇部は少し特殊で学園長大河内の趣味もとい意向もあり、通常の演劇から歌、踊りを取り入れた物(ミュージカル的な物)、はたまた歌謡ショウまでこなすのだ。
学園外でも活動しており、ファンも多い。
そこで戦闘部隊をやりながら部活動をこなすというのはそれはもう大変なのだが、それを聞いてもリリィは憶さなかった。
「はい!頑張ります!」
「能天気な…あなた本当に分かってますの?」
「(やれやれね…)」
水と油の二人に先が思いやられる京子であった。
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