目が霞む。めがねかける?
岩田へいきち
目が霞む。めがねかける?
「目が霞む。ぼんやりしてる。なんかよく見えない。寛、どうしよう?」
梨美菜がぼくと樹菜が住むこのアパートにやって来て3人で住むようになってから早3ヶ月、もう直ぐ夏休みが始まろうとしていた夕暮れに梨美菜がぼくに話しかけてきた。
「ああ、スマホばかり見てるから目悪くなってるんじゃない?」
梨美菜は、お姉ちゃんがいるとはいえ、お姉ちゃんは、全国レベルの大会で遠征が多く、この頃は、少し寂しそうにしていることが多くなっていた。ベッドの中でママや中学の友だちに連絡することが多くなっていたのだろう。バドミントンの成績も一年生の時の樹菜のようには上がらず、テストの成績も落ちてしまった。少しホームシックになっているのかもしれない。そう言えば、樹菜は、この時期までは、ママと一緒に暮らしていて、ホームシックにはならなかったのか? ぼくでは、梨美菜を支えきれなかったようだ。
「そうかな? そう言えば、布団の中でけっこうスマホ開いてた。明るい時には見えるんだけど。教室も雨の日なんかは、照明ついててもなんか見にくい。体育館も暗いところへ行くと見にくいし、めがねかけた方が、良いのかな?」
「めがねね。梨美菜、バドミントンやってるから色々困るんじゃない?視野も狭くなるし、曇るし、遠近感が分かりにくいと思う。個人差はあると思うけれど、ぼくの場合、めがねで野球のバッターボックス立ってみたけど遠近感が全然分からなくて打てなくなった。コンタクトレンズの方が裸眼に近いからいいけど、扱いが面倒で、つけたまま寝ちゃうと大変なことになる。梨美菜、まだ悪くなりかけたばかりだからスマホ見る時間を減らして遠くを見たり近くを見たり緑を見たり目の運動をしたら戻るんじゃない? 明日からスマホ1日30分以内ね」
「嫌だ、寛の意地悪」
「コンタクトレンズお金掛かるよ〜。ママもパパも一生懸命働いてるんだから」
「はい、はい。分かった。少なくする。寛は、いつもママの味方なんだから。ママのこと好きなの?」
「ああ、ママのことも樹菜のことも好きだよ。そして、梨美菜のことも」
実際にみんな可愛い過ぎる。ママは、保育園の頃から知っているが、ずっと可愛い。子どもの頃は、ついにママと話すことはなかったがママへの想いが樹菜、梨美菜を引き寄せてしまったのではないかと思うこの頃だ。
「夏休みに入ったら、バドミントン、一週間ぐらい休みをもらって家に帰って来ればいい。ママに迎えに来てもらおう。地元で眼科を受診して、このままでいいのか、コンタクトレンズにするのか、めがねも作るのか相談して来ればいい」
「うん、そうしようかな? 寛ありがと」
ホームシックも治るに違いない。
夏休みに入って最初の週末にママが梨美菜を迎えに来て帰った日の夜、樹菜が全国大会から帰ってきたから、ぼくの車で駅まで迎えに行った。
「寛、ただいま。梨美菜、家に帰ったんだね。また、あの夏のように2人きりだね。懐かしい」
どうしたんだ、樹菜。
「そうだね。梨美菜は、ちょっとホームシックにかかってたみたいだ。目も悪くなってて、学校の成績もバドミントンの成績も伸びなかったのは、それが原因でスマホを触り過ぎるから悪循環してたみたいだね」
「うん、梨美菜、ママの子と大好きだからママとしばらく居れば元気になるよ」
「そうだね。ぼくにママの代わりは無理だったみたいだね」
「それよりさ、今夜は、樹菜と話そ」
どうしたんだ、樹菜。
「えっ、ぼくと? なんだか嬉しい。そう言えば、梨美菜が来てからゆっくり話すことなかったね。何かあった?」
「ううん、何も。話したいだけ」
あっ、やばい。ぼくは家政夫だ。高校3年生になって、多くの遠征もこなしている樹菜は、とても大人に見えた。
2週間後、梨美菜たちが戻って来た。これ以上目が悪くならないようにと、とりあえず授業用にめがねを買ったということだった。
「私もファッション用のめがね勧められちゃった」
ドアにはとてもオシャレなめがねをかけた『めがね美人』のママがもたれかかっていた。
「ママ……」
終わり(?またどこかで)
目が霞む。めがねかける? 岩田へいきち @iwatahei
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