眼鏡の声が聞こえるか
冬野瞠
眼鏡が棲む星
環境汚染により最後の人類が死に絶えたその瞬間、遺された
人類滅亡後、眼鏡が自我を得たのは自然な成り行きと言えるだろう。
なにせ眼鏡と持ち主は、幾星霜に渡って同じ景色を見、同じ会話や音楽を聞き、同じ匂いを嗅いできた相棒であり、半ば分身なのだから。ヒトの時代から「眼鏡が本体」という揶揄も存在していた。風呂と就寝時以外片時も離れない生活の積み重ねにより、無機物である眼鏡に心が生まれたのだ。
とはいえ、うぞうぞ動きだした眼鏡に社会性はなかった。
眼鏡同士の意志疎通は困難、というより不可能に近かった。音声を発する器官は備わっておらず、テレパシーといった便利かつ都合のいい能力の持ち合わせもない。眼鏡に可能なのは、テンプルを不器用に動かし、時速五
生物とも無生物とも、生きているとも死んでいるともつかぬ奇妙な有り
眼鏡は食事や睡眠をとらずとも無限に活動できたため、それが余計に無力感を深めた。
眼鏡が絶望にも
――初めまして!
――この声が聞こえますか?
――私たちを助けて。
互いに心は読めないが、眼鏡の心境なら想像がつく。
異星人は謎の物体に囲まれ、恐怖したらしい。彼らは宇宙船に取って返し、飛び立った後は二度と帰ってこなかった。
我々意思持つ眼鏡は、ずっと待ち望んでいる。私たちの声を聞いてくれる何者かを。
もし、この声が伝わっているのなら、応えてほしい。
そう、あなただ。そこのあなた……私たちの救世主かもしれないあなた。
どうか、この孤独に光を。
眼鏡の声が聞こえるか 冬野瞠 @HARU_fuyuno
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