みんなかけてる

めがねをかけてる

※報告者のプライバシーを守るため、本録では人の名前を伏せています。

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　その一件について僕のところに連絡が来たのは月曜日の昼間のことだった。と言っても僕は二日酔いで、枕の上をぱたぱた叩いて起き上がり、それから足元に置いてあるスマホを手に取った。僕は電話に出た。

「はい」

　それは奇妙な相談者だった。

　中年男性らしい、比較的粘着質な声のそいつは、僕にいきなり電話をかけてきた非礼を詫びると、早速本題に入った。

「モスコットの眼鏡？」

　僕が訊き返すと男性は頷いた。

「ええ。ドイツのメガネブランドです。どの死傷者も、その眼鏡をかけているんです」

　男性は身元を明かさなかったし、仮に明かさなかったとしても僕もここで公開する気はない。さっきも書いた通り匿名の、あるかないかも分からない話だと思って読んでほしい。だが、彼が言うに。

　去年夏。川遊びをしていた少年が溺れる。救助をした男性が死亡。モスコットの眼鏡を愛用していた男性だった。

　先月七日。とある町で起こった交通事故。子供を連れた母親が巻き込まれ死亡。モスコットの眼鏡をかけていた。

　そして昨日。通り魔事件が起こり、被害者女性は死亡。やはり買ったばかりの、モスコットの眼鏡をかけていた。

　他にも五件ほど事件の概要を教えてもらったが、いずれの事件もやはりモスコットの眼鏡が共通するらしい。唯一、川遊びの少年の事故だけ死亡男性は流されてしまったので顔に眼鏡はなかったが、彼が救助のため川に向かった際に眼鏡をかけていたことは多くの人間が確認していたのでやはり、ということだった。

「でも眼鏡をかけているなんてありふれた特徴ですし」

　と、僕は言葉を濁らせた。

「それだけを引っ張り出されても、シンプルに一年で死んだ人の中から眼鏡をかけていた人を抽出しましたよって言われれば納得でき……」

「ところであなた」

　電話の男はつぶやく。

「眼鏡、かけてませんか？」

　そう言われ、僕はそれをぐいっと押し上げた。

了