本作は小説家・飯田太朗シリーズの一作ですが、この作品から入っても全く問題ありません。
論理派ミステリの多い同シリーズにおいては、サイコスリラーの色味の強い、異色の作品と言えるでしょう。
舞台となるのは『静謐の教団』というカルト教団。
飯田先生は、かつて同じ夢を目指した親友・阪村を追って、教団に潜入します。
まず、この教団内での描写が凄まじい。
一服盛られた飯田先生の見る幻覚がとにかくグロいです。精神を直接的に害されるような最悪の気分になります。とても褒めてます。
恐ろしいのは、幻覚と現実の境目が曖昧なこと。明らかに非現実的な現象なのに、いつからその領域に踏み入れたか分からないのです。
グロさそのものより、まともな人格や倫理観を守る境界線が消失してしまうことこそが、何より怖い。
思考力を奪われ、倫理観を書き換えられ、人格を支配される。
明らかにおかしいことなのに、それが是であり正なのだと植え付けられ、ますます心が壊れていく。
こうした描写にとにかくリアリティがあります。
パワハラやモラハラなど、歪んだ構造のもたらす関係性の毒には、心当たりのある人もいるのではないでしょうか。
飯田先生は、阪村氏と和解できるのか。
そもそもまともな対話は可能なのか。
かつての楽しい日々があったからこそ、今の状況がひどく苦しい。
ラストまで行き着いて、キャッチコピーにある通りの想いを抱きました。
これがただの悪夢だったら良かったのに、と。
読後感を含めて、ものすごく好みのお話でした。
精神を侵食するタイプのサスペンスがお好きな方におすすめです!
まず初めに警告。
本作には非常に強い嫌悪感を及ぼす描写が多数見られます。
ゴア表現、ハードなエログロ、倫理観のない重篤な人権侵害などへの耐性がない方は、本作品を読むことを避けられた方が良いでしょう。
ここまで醜悪極まり、嫌悪感を逆なでさせるおぞましい作品も中々ありません。
そして、新興宗教がこれらの常軌を逸した狂気の世界の隠れ蓑に使われているというのも、実に真に迫る胡散臭さを感じさせます。
細かな小道具を子細に描き上げリアルを追求し作品の解像度を高める技法、不安や焦り、恐怖を掻き立てる不快なほど子細な情景と心理の描写、現実感が薄れ何が本当の事なのかわからなくなる不確かさへの疑念など、脳にどんどんと刻まれるように引き込まれ、読み進めてしまいます。
これが「知ってしまう」という類の呪いか……。
何度も読むのは御免被りたいですが、読まずにはいられない魔力のある作品です。
十分にお気を付けの上読みください。