White&Black
メイルストロム
アンヘルとディモニオ
ある日、住み込みの働き先で不可思議な人形を見つけた。
白を基調に──なんて話じゃない。髪の毛から爪先まで、その全てが白一色なのだ。嵌め込まれた義眼は何処までも透き通っているのに、ちゃんと白という色を感じる事が出来た。それ故か瞳の中に刻まれた細い一筋の金線を強く感じる。
そしてその隣には黒一色の人形が置かれていた。この2体は双子のコンセプトなのだろうか? 顔の作りは全く同じなのに、肌の色を含めた全てが黒色の為に表情がよくわからない。吸い込まれそうな程に深い黒色の瞳には、白の人形と同様に一本の金線が刻まれていた。
……まるで山羊の瞳のように見える。これで角がついていたらきっと、コイツは悪魔の人形と呼ばれていた事だろう。
「──ヨル。その子達が気になりますか?」
「気になりますよ。で、これは師匠が造った……んですよね」
「ええ。私
師匠が件の人形達に向ける目は優しくて、どこか冷たさを感じさせるものだった。そして言う通り、師匠らしくない造りの人形でもある。
「その子達の名前、わかりますか?」
名前──そう独り言た瞬間、片方はアンヘルでもう片方はディモニオだと師匠は教えてくれた。馴染のない単語ではあったが、確か両方ともスペイン語だったはず。そしてその意味は──天使と悪魔だった。
造り主がそういう名前をつけたということは、そういうことなのだろう。私は迷うこと無く白い方を
「ヨルはどうして白の子を
「黒は喪服っていうかその、死に近いイメージが強くて」
「つまり、色のイメージに引っ張られたと?」
そうだと返すと、師匠は残念そうな表情を見せ件の人形達を机へと座らせる。そして師匠はおもむろに白い子──
「このように──悪魔らしい要素はちゃんとあるのに、貴女は色のイメージからこの子を天使だと思ってしまった。本当に色の持つ力というのは大きいものです」
「これだけ真っ白なら誰でも天使だと思いますよ。というか師匠、どうしてこんな人形を作ったんですか?」
「理由なんて忘れてしまいました。なにぶん作ってから数年程経っていますし、納品される事も無くなった子たちですから」
数年経っているのに色褪せないというのも恐ろしい話だが──納品されることも無くなったとはどういう事だろうか。そんな事を考えていると、師匠はブラシで人形達の髪を梳かし、衣服の埃を払うと専用のケースへとしまい込んでしまった。
「それ、どうするんですか?」
「……納品の予定はありませんし、倉庫で暫く保存ですね」
「なぁ師匠。それを発注したのはどんな人だったんだ?」
思い出せないのか、師匠は手帳を取り出すと記録を遡り始めた。そうして数枚捲った辺りで発注者を見つけたのだろう。
「──色覚異常の子を持つ親です。白いものは黒く見えるという事で、白い悪魔と黒い天使を望まれました」
「そんな事もあるんですね」
「勿論ありますよ。肉体の機能的な異常からくるものもあれば、文化からくるものもあります。まぁ、この場合は異常と言うべきではないのでしょうが……」
曰く、認識の差異に近いものだと言う。例えば私達の住む国では太陽を赤く塗るが、諸外国では明るいオレンジ色で塗る事もあると聞く。要するにある種のステレオタイプイメージの様なものだと。
「……なのでまぁ、国によっては白色から死を連想する事もあります。また黒色も同じで──使われ方によっては高貴さや自信、高級感を演出する事もありますね」
言われてみればそうだ。シロモノ家電、なんて言われることもあるが──スタイリッシュさを感じられないということで、わざわざ黒色のシロモノ家電を買い揃える人もいる。それに思い返してみれば、本体色が気に入らないという理由だけで購入を見送った事もあった。それ以外は全ての要素を満たしているのに、ただ色が気に入らなくて見送る経験はそれなりにあると思う。
「ヨル。この子達は貴女に差し上げます」
唐突な提案と共に差し出された2体。師匠には一体どのような意図があるのだろうか?
「今すぐに、という訳ではありませんが──きっと貴女への良い刺激になると思うのです。この子達は良くも悪くも普通ではありませんから、何かしら感じるモノはあるでしょう」
「師匠がそういうのなら……」
受け取ったからと言って何か問題があるわけでもない。それに師匠の言う通りこの2体は普通とは言い難いモノだ。今はなんのインスピレーションも受けられないが、いつかきっと役に立つ事があると思いたい。
White&Black メイルストロム @siranui999
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