奥様の愚痴

和辻義一

面倒くさいダンナ

 ちょっと奥さん、聞いて下さいよ。うちのダンナ、すごく面倒くさいんです。


 っていうのも、うちのダンナ、いい加減なんだか几帳面なんだか、よく分からないところがありましてね――。


 この間、ダンナと一緒にデパートへ行ったんですが、その時に私が化粧品店でファンデーションを買おうと品定めをしていたら、途中でダンナがちょっとイライラしながら私に言ってきたんです。


「一つの商品を選ぶのに、一体いつまでかかっているんだ。化粧品の色なんて、どれも似たようなもんだろ」


 それを聞いた店員さんは思わず苦笑いし、私はあんまりにも恥ずかしくて、穴があったら入りたい気持ちだったんですが――同じファンデーションでも、ピンク系の色のものもあれば、ブラウン系の色のものもあるし、使う人のタイプや好みで一見似たような色でも、全然違うものだってあるっていうのに。ねぇ?


 かと思ったら、つい先日お義母さんと話をしていた時に、たまたまダンナの車の話が出て、私が「あの青い車」って言ったら、あとでぶすっとした顔で私に言ったんですよ。


「俺の車の色は、WRブルーマイカだ」


 一瞬、呆気にとられました。


 私からすれば、あの色はブルー――せいぜいメタリックブルーって感じぐらいにしか見えませんのよ。なのにダンナったら、


「たとえ同じような色に見えたとしても、各メーカーによって色合いも全然違うし、当然呼び名も違う。それぞれにきちんとした名称があるんだから、日本語は正しく使わなければダメだ」


 とか言うんですよ。


 もうね、ホント嫌になりました。ダンナの趣味で仕方なく買った車ですけど、私からすれば乗り心地は悪いしうるさいし、荷物はそんなに載らないし、ガソリン代やらタイヤ代やら色々と高く付くし、おまけにド派手な羽根飾りとかついてて、正直一緒に乗っていると恥ずかしくなることも少なくないんです。


 ――えっ、奥さんのところのご主人さんは、白と黒と赤と青と黄色と緑色しか認識していない? それって一体どういうことなんですか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

奥様の愚痴 和辻義一 @super_zero

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ