出会いと別れの季節

 気づいた時には遅かった彼女との別れ。それを引き合いに出すかのように人違いで声をかけてきた一人の女性。別れと出会いの季節としての描写に、女性的な情緒を感じます。
 特に印象的だったのが、ストーリーの進行に伴い、重層的に織り成される恋慕の強調です。心に蟠る澱のように、いつまでも燻り続けるあの人の存在。思い出したくなかった白昼夢に主人公の女性が悩み苛むシーンに共感を覚えます。
 しかし、そんな思念を振り払うように想いは確信へと収束していきます。春の息吹と相まって、心の加速度を感じるストーリーも魅力。透明感のある言の葉が紡ぐ新たな気持ちとステップとが春の心に響く、フェミニンで純情可憐な物語です。