トリあえずガンばりマス!

弧野崎きつね

トリあえずガンばりマス!

 私の職場に、新人が久しぶりに入ってくるらしい。それも、外国人。私は英語を話せないし、聞き取ることもできない。でも、職場内の序列的には、私が教育係になる公算が大きい。正直終わったと思った。身の振り方を考えるうち、新人がやってくる日を迎えた。

「ハジめマして!本日からオ世話になりマス!Alexanderです!アレックスと呼んデ下さい!ヨロしくお願いしマス!」

 新人は、拙いながらも、ちゃんと日本語を話せた。ほっとした。案の定、私が教育係になったが、これならやっていけそうだ。


「とりあえず、仕事を教えるよ。パソコンの電源を入れて」

「トリあえず……That means Move First, Think Later. 私の好きな言葉デス!とても本質を表しテいマス!」

「ごめん、何言ってるのか分からない。でも、アレックス君が気に入ってくれたみたいで良かったよ」


「Oh...Bossに怒られテしまいマシタ……。トリあわず仕事しマス……」

「ごふっ。……とりあえず、とりあえず、ね。……ふふふふふ」

「髙橋サン。お茶こぼれてマス」


日村幸生ヒムラユキオサン……」

「うん?どうしたの?アレックス君」

「僕のキラいな漢字が、ふたつとも入っていマス。ちょと怖いデス」

「へえ、どれ?」

ニチセイデス。読み方多すぎデス!」

「あー……分かるわあ……」


「日村先輩!こないだのお店、トテモ美味しかったデス!あリガとぅございまシタ!」

「おー。仕事頑張ったら、また連れてくぞー」

「ハイ!楽しミにしていマス!」

「あら、アレックス君。日村さんと仲良くなったの?」

「ハイ!お話シたら、素晴らしい先輩デシタ!」

「うんうん。良かったね」

「仕事シてる時と、オ酒飲んデる時、全然違う人デス。名は体を表すデスね!」

「君、なかなか怖いこと言うね……」


「ねえ、アレックス君。ちょっと英語話してみてくれない?最近、勉強しててさ。聞き取れるか試したいんだ」

「Oh, sounds good. That sounds like me. Do you want to go abroad in the future? 」

「おおーすごい。でも、外国に行きたいんじゃないんだ。英語が分かったら、日本にいても楽しい気がしたから」

「Oh, スゴいデス。私の言ったこと分かりマシタ。早口だったデスけど」

「あ、やっぱり?そうだと思った!意地悪だね~」

「Congratulations! 」

「ありがとう。私も、とりあえず頑張るよ。アレックス君みたいにさ」

「恐縮デス、髙橋サン」

「おお~、やるね~」

「頑張ってマスから!」

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