第5話 優夫とマサル
俺は優夫とマサルの3人でハロウィンイベントの特設会場に向かってみると、独特で異様な雰囲気に圧倒していた。
心霊スポットである旧日暮跡地のエリア内にある古びた廃墟のお寺の玄関前に簡素で大きなテントに、大型のモニターと撮影機材、パイプ椅子が並べられて今では懐かしいゲーム機と閉鎖村のゲームパッケージが設置している。
その奥にデカデカと『ホラーゲーム「閉鎖村」20周年記念YouTubeハロウィンイベント』と書かれた垂れ幕が掲げられていて、周りに閉鎖村発売当時の最新技術を導入した3Dポリゴンの登場人物や敵、村から脱出するためのアイテムの切り抜きが飾れている。
遊んだ当時は
・ゲーム内に登場する呪いを受けてもがき苦しむ村人の浮き出た血管や髪の毛の揺れ
・敵として登場する怪異や呪いを押し付けようとする村人から逃げて座敷牢の中で隠れて震えているキャラの額に滴る汗
など、描写が実写に近く生々しいほどに実写に近かくてものすごく怖かった。
俺はあのゲームを初めてプレイをした夜眠れなくておねしょしたのを思い出し苦笑した。あの頃は恥ずかしかったなぁ。
当時の俺はまさしく閉鎖村のキャッチコピー「逃げても逃げても続く永遠の呪い」は秀逸だと思っていた。
今みると、画質も荒くカクカクしてかなりチープに感じるけど。
そんな古いゲーム実況動画を撮るための撮影機材やスクリーンなどは最新のものが使われているのに、ゲーム機やソフトのパッケージは20年前のもので古くて周囲の建物は今でも崩壊してもおかしくないほどの廃村が入り混じっている。
まるで「今の時代」「ゲームが発売された20年前」「夏休みの自由研究で旧日暮跡地へ行った時の時間軸」「そしてゲーム内の時間軸」
これらの4つの時間軸がこれから混じっていくかのような錯覚を受ける…。
懐かしさと、嬉しさ、でもこのままゲームの世界とか20年前の時間軸とかに迷い込むのではといった不安な気持ちで頭がいっぱいになった。
「おれたち、無事に帰ってこれるかな」
と思わず口にこぼすと優夫は苦笑の笑みを浮かべる。
「何言っているんだよジュンヤ。ちょっと怖くなってきたじゃないか」
「悪い悪い、でも心霊スポットのど真ん中でホラーゲームするのって今までなかっただろ?」
俺たちは事前にたかしが用意してくれた座席表を見つけて腰を下ろした。
「まぁ、確かにね。他に聞いたことのないイベントだし」
「だよね!俺、初めてのイベントだから不安ってのもあるけど、ただでさえ曰くつきの旧日暮跡地でやるのって更に不安にならないか?何か事件とか置きそうな雰囲気だし」
「そうだね!でも、こうして、再びジュンヤ君と会えたしあの有名なYouTuberや俳優たちと直に会えるって貴重だよ!」
優夫は少し興奮気味でワクワクしていた。
俺は正直、YouTuberについては詳しくはないが、閉鎖村の開発スタッフや出演俳優の方に興味があった。
当時の開発背景とか、苦労話とか、演じていた俳優とあれこれ話が聞けたら嬉しいのだが、肝心のたかしはまだ来ていないのが気になる。
「たかし、本当に大丈夫かな。また昔みたいに一人ではぐれていなければいいんだけど」
「え?ジュンヤ君。何を言っているんだ?」
優夫は真顔になって俺の顔を見つめる。
「いや、ほら、小学校のころ夏休みの自由研究で旧日暮跡地へ行った時に、たかし迷子になっただろ?途中で迷子になっただろ?みんなで探しに行ったの」
「本当に、ジュンヤ君は大丈夫なの?さっきからマサルって人の件といい一人でブツブツ独り言つぶやいたりしておかしいよ」
優夫は幽霊を見るかのように顔を真っ青になっていた。
え?俺がおかしいのか?確か、あの頃迷子になったのはたかしの方じゃなかったのか?マサルの件ってなんだ?
俺たちにしばらくの沈黙が続いているが、それを断ち切るようにようやくイベント開始のアナウンスが鳴った。
「ようこそ!『ホラーゲーム「閉鎖村」20周年記念YouTubeハロウィンイベント』へ!」
「本日は特別ゲストとして!ゲーム実況系YouTuberと閉鎖村の開発スタッフと出演者たちをお呼びしています!」
司会者の合図でゲーム閉鎖村のオープニングテーマが流れ、特別ゲスト10名が登場した。
彼らの登場とともに俺と優夫、ほかの参加者は歓声に沸いた。
彼らは俺たちの歓声に答えた後で用意された椅子に座るが、4名ほど空席があった。
司会者によって、YouTuberたかしが知り合いの霊媒師とともに出演する予定が、想定外のアクシデントで遅刻することが知らされた。
どうやら、たかしと3人の霊媒師をここへ呼ぶつもりだったようだ。
「幸い、大したけがもなく、落石で足止めされているみたいですのでしばらくしたらYouTuberのたかしさんと霊媒師が到着すると先ほど連絡がありました!」
この司会者の言葉によって、俺も優夫も安堵し周囲もホッとした表情を浮かべている。
その後はたかしたちが来るまでの時間稼ぎなのか、元々の予定なのか。
前半のゲストたちの当時の思い出話が気持ち長く感じる。
だが、ゲーム制作時の下見の際にラップ音が頻繁に続いたり、開発スタッフが一人迷子になったりした裏話は怪談みたいで怖かった。
そして、いよいよ大人気YouTuberのマジオが旧日暮跡地のど真ん中で『閉鎖村』をプレイするコーナーへと移った。
このイベントのために用意した特設の古き懐かしいゲーム機をマジオが起動すると、特設のテレビモニターにゲーム画面がついた。
このあたりから、いつまで経っても来ないたかしたちの事を忘れ始めてゲーム画面に熱中した。
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