第7話 廃寺にいたのは…
ハロウィンイベントで心霊スポットのど真ん中で、YouTuberになったたかしと人気ゲーム実況者YouTuberと一緒にゲーム実況を見る。
俺たちは当初、その予定でこの幽霊が出そうないわくつきの廃村に来たが、まさかこうなるとは思っていなかった。
かすかだが、ゲーム実況用のステージの裏でずっとなり続ける釘を打ち付けるような音の正体を探るために、何人か廃寺の方へ向かった。
廃寺の方へ向かう道は、あらかじめゲーム実況用に用意されたプラスチックのパネルとは違って当然ながら舗装されていない。
おそらく数十年数百年の歴史のありそうな石畳や石段は所々割れたりかけたりして、その間に枯れた草木がまばらに生えている。
それに加えて、もう日が沈みかけていて足元が見えづらい。
なので特設ステージから廃寺までの足場が悪く、途中でこのハロウィンイベントに参加した女性が草で隠れていた小さな穴にはまって足を挫いた。
女性はイベントスタッフに簡易的な医務室へと運ばれたのを見送った後で再び、廃寺の方へ向かった。
もうこの荒れようは、だれもここへきて管理されることはなく放置されている場所だと物語っている。
にも関わらず、こんな人気のない廃れた廃寺から何かを叩いている金属音が鳴り響いている。
近づけば近づくほど、金属音が大きくなっているので、やはり気のせいではない。
ここあたり一帯は心霊スポットとして名高い旧日暮跡地だ。
もしかしたら、このハロウィンイベントに参加する目的で参加した俺たちの他にいるのか?
それとも、この世のものじゃない幽霊がいるのか?又は『閉鎖村』に登場した『しるしの森』に閉じ込められた人のなれの果てなのか?
ゲームは序盤の序盤まではゲーム実況者のマジオがプレイをしていたせいか、そんな非現実的な妄想や『閉鎖村』のストーリーが俺の頭の中に雪崩のように押し寄せてくる。
たしかゲーム『閉鎖村』に登場する『しるしの森』は、この村を守る神様が帰って安らぐ特定の日だから立ち寄ってはいけない決まりになっている。
もしも破ると、この世でもあの世でもないところに迷い込んでそこから出られなくなるというが、神様のお許しを貰えば戻ってこられると言われている。
そのお許しを貰う方法の一つは、自分と違う時代の人間を〇害してその血を生贄に捧げるというから、躍起になって襲い掛かるのだ。
ゲーム内では、主人公の
『戦に敗れた落ち武者』
『村の掟で姥捨てをした道中で迷った江戸時代の町人』
『軍事訓練中に迷子になった旧日本兵』
『23年後の2003年の未来からやってきたオカルトマニア』
など様々な時代の人間の慣れの果てがやってきてはお印様と呼ばれる神様のお許しを求めて襲い掛かってくる。
そのゲームのストーリーも、心霊スポットである旧日暮村跡地に伝わる都市伝説や噂を元にしたものだ。
もしかしたら、その噂って本当にあったのか?
この廃寺にいるのは、まさに『人のなれの果て』なのか?
「ここから、音が聞こえるな」
そんな考えが巡りまわっていたが、そうこうするうちに声の聞こえる廃寺の襖の所までやってきた。
いつの間にか俺たちは廃寺の内部に来ていて、乱雑に転がっている金属製や木製の仏像に塵や埃が雪のように積もっている。
埃臭さに交じって、湿気た木材や鉄の臭いが鼻にきて息苦しい。
その息苦しさのせいか、心霊スポットのど真ん中にいる恐怖のせいか、俺の呼吸が段々と荒くなっていき手が震えている。
肝試し目的の外の人間はともかく、地元の人間すらもう何年も来ていないにもかかわらず、襖の奥に何者かがいるのだ。
「今から私がここの襖を開けますが、心の準備はいかがですか?」
マジオは左の人差し指に口を当てながら小声でみんなに同意を求めた。
正直、この襖を見たら呪われそうで怖いが、もうここまで来てしまったからには金属音の正体を知りたい。
もしかしたら、あの『閉鎖村』の伝承が本当で『人のなれの果て』がいるんじゃないかという期待もあった。
「ちょっと待ってください」
みんなは顔を見合わせてうなずく中、優夫は止めた。
「ジュンヤくん、やっぱり君だけなんだかおかしいからやめたほうがいいんじゃないか?いやな予感するし、僕と一緒に戻ろうか?」
「俺がおかしい?」
てっきり優夫自身が怖気づいて呼び止めたのかと思ったが、俺?
どこがおかしいのか?
「うん、さっきからぶつぶつ独り言がすごいし、僕と誰かの名前と間違えるし。なんだかおかしいよ。嫌な予感がするんだ」
「優夫こそ、何を言っているんだ?俺は大丈夫だ」
正直、今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
でもここまできてしまったからには、襖の奥にある得体の知れない音の正体を確認したい気持ちが勝っていた。
それにたかしが霊媒師が連れていってこっちに向かっているから、もしも俺に何かあったら霊媒師に頼めるから。と俺は自分自身に言い聞かせるように説得した。
「それならいいけど、無理はしないでね。これが終わったらたかしと霊媒師に見てもらってね」
後から考えれば、ここで優夫の言葉を軽く受け止めた俺の行動はおかしかった。
ここで気づけばよかった、と今更後悔することになった。
マジオがみんなに合図を送った後、襖をガラッと開けると俺たちが思っていた創造とはかけ離れていた光景が広がっていた。
埃と血と燃えカスが混ざった臭いが鼻を通って肺へと突き刺さる。
お寺の内部にいたのは、呪いの藁人形を持って丑の刻参りをしている女性でもなく、『閉鎖村』に登場する『人の慣れの果て』でもなく、血まみれの男の背中だった。
お寺のお坊さんが木魚を叩きながらお経をあげる内陣には、男が配置したであろう乱雑に配置された複数の照明器具やローソクの火や揺らめいて照らしている。
鎮座する男の周りには真っ赤な刃物や藁人形、フランス人形、球体人形、ソフトビニール人形などありとあらゆる人形が、血まみれで手足のついたモノと共におもちゃ箱からぶちまけられている。
本来ローソクやら香炉、お供えを置くためにある前机に交じって首のない日本人形が、両側にある火のついたローソクを挟む形で十字架に張り付けられていた。
胡坐をかいた男の背中越しで顔はわからないが、右手には金槌を持っていて、如何にも古い仏像の頭に釘を打ち付けていた。
あまりにも現実離れした異様な気配にのまれて誰も言葉を発することができず、しばらく静寂な間があたりを包んだ。
そして、その沈黙を遮る形でイベントスタッフが腰を抜かして悲鳴を上げた。
悲鳴はお寺の内部に響き渡って反響し、それに気づいた男はマリオネットのようなぎこちない動きでゆっくりと立ち上がる。
ハロウィンイベントに参加した客のうち2,3人一目散に逃げたが、恐怖が残った俺たちの身体を囲い込んで、動くことができなかった。
振り向いた男の顔は、想像を絶するものだったからだ。
まず、目の瞳は虚ろであるが鋭く、目元は紫色に近い青のクマが浮き出ていて得体のしれない恐怖を感じる。
頬には返り血がびっちり付いていて、まるで目や鼻から血が出ているようにポタリポタリと滴り落ちて狂気の中にどこか悲しげな表情だ。
口元には明け方の三日月のような笑みが浮かんでいて、吐く息からは工場の排気ガスに近い黒い靄をまとわせているように見えいて、人間味を感じない。
それだけでなく、首には今にも喋りそうな男の生首をぶら下げていて更に薄気味悪い。
YouTubeの再生マークや『川瀬オカルトブラザーズ』とプリントされた黒いキャップと黒縁メガネ、血まみれの顎髭の生首の男の断面からは血がポタリ、ポタリと滴り落ちている。
生首の男も血まみれの男と同じような表情を浮かべており、まだ生きているかのような肌のつやが不気味さを際立たせている。
そんな生首の男のまだ生気の残った目とあった瞬間、俺は背中から氷水をかけられたような悪寒が走る。
「懐中電灯のライトって顔に当たると眩しいなぁ…」
血まみれの男の低くて透き通った声がこだまして聞こえた瞬間、俺たちはくものこをちらすように逃げた。
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