第6話 閉鎖村

このイベントのために用意した特設の古き懐かしいゲーム機をマジオが起動すると、特設のテレビモニターにゲーム画面がついた。


 テレビモニターには、ビデオカセットをセットする音が廃村となった旧日暮村跡地に鳴り響き、今では懐かしいテレビの砂嵐が流れる。

 カラスとひぐらしの鳴き声と共に現れたポリゴンCGの村々のオブジェクトは夕日によって真っ赤に染まっていた。

 モニター画面をよくみると、ここを通った時に見た朽ち果てた廃村に似ている。

 かつて人が住んでいた頃の木造平屋建てを再現しているんだと感じ、改めて 旧日暮跡地を舞台にしたホラーゲームなんだと俺は認識した。


 夕日が沈んだ途端、鳴き声がピタリと泣き止みあたり一面真っ暗になっていく。

 そこからおどろおどろしいBGMと共に村人たちのひそひそ話がフェードインし、無数の人影がテレビモニターにびっしりと映り込んだ。

ひそひそ話が徐々におおきくなり、会話が聞き取れるまでになる。

「高島のところのわかいもんがよそ者を連れてがお印様の森へ入ってしまったらしい」

「あの森は神聖な場所なのに、三春ちゃんを除いてまだ行方不明ですって」「やはり、お印様に連れていかれたのか」

「春子ちゃんは巻き込まれただけだが、かわいそうに…」

「あの森の封印を解いてしまったら、この村を閉鎖せんとな」

 この最後のセリフが聞こえた途端、画面が真っ暗になり「閉鎖村」のオープニング画面が映った。

 そうだ、このオープニング画面は俺たちが小さいころ何度もみていたものだ。

 このオープニング画面見た当時もそうだが、今でもゾクッ背筋が凍るほどに怖い。

 そして、ゲーム実況者のマジオがニューゲームを押して閉鎖村の物語が始まった。

 閉鎖村のあらすじ。

 1980年7月25日。埼玉県の山奥にある「日の暮れ村」では、7年に1度に開催されるお祭り以外立ち入りを禁止している「しるしの森」と呼ばれる森が存在した。

 お祭り以外でこの森に訪れると、これまでこの村でありとあらゆる祟りや呪いを封じてきたお印様と呼ばれる神様の逆鱗に触れるといわれる。

 特に、祠にあるお地蔵様にいたずらをしたものはこの森から出られなくなる。

 そんな噂を聞いた村の若者たちが肝試しにこの森に訪れるのだが…。

 あらすじの文章が流れた後で、主人公篠須光一しのずこういちが他の友達と肝試しをしていたが、夜の森で迷子になっているオープニングムービーが流れる。

 篠須は懐中電灯を照らしながら必死に友達の名前を叫ぶが、返答は帰ってこない。

 オープニングムービーが終わるとマジオは篠須を操作していくのだが、彼はゲームの中の森を臆することなく淡々と徘徊していく。

 森の中を徘徊する際に、操作キャラである篠須の背後にチラッと人影が見えたり後ろから足跡が聞こえたりする演出がある。

 その演出のたびに視聴しているファンが軽い悲鳴をあげているが、マジオは軽くあしらってゲーム内に仕掛けられた落とし穴をさける。

 この人、驚かないのか?

「さすが、マジオさん!これくらいのことでは驚かないんですね」

「もうここのステージは実況で何度もやっているので」

 MCがマジオに質問するとさらっと受け答えするほど余裕の様子だ。

 余裕の表情のマジオに対してファンや出演者からは歓声の声があがる。

 俺はこの人のゲーム実況は見たことはなかったが、彼のゲーム実況スタイルに対して新鮮味を感じた。

 ゲーム実況と聞くと大抵、お笑い芸人ほどじゃないがみんなオーバーリアクションでゲームの演出に反応するもんだと思っていた。

 だが、彼のように淡々と冷静にこなしていくゲームスタイルはどこか頼り になるように感じる。

 俺もこんな感じに現実世界の問題を対処できたらなぁ。


 

 そんな篠須を操作しているマジオは気にすることなくゲームを進行するが、突然マジオの手が止めてあたりを見渡した。

「え…?」

「あの、マジオさんどうかしましたか?」

 プロのゲーム実況者がゲームを中断した様子を見たファンと関係者はざわつき始めるが、マジオはMCに返答をすることなくあたりを見渡していた。

 しばらくマジオは両手のコントローラーを手放したままの状態が続き、空気に緊張感が走る。

 ひょっとして、何かゲーム中に本物の幽霊をみたのか?

 さっきまで忘れかけていたが、俺たちは心霊スポットの旧日暮村跡地のど真ん中でゲーム実況を視聴しているんだ。見えたっておかしくない!

 そう思うと、途端に鳥肌が立ってきた。

「いや?さっきのここのおどかし演出ってあったっけなと思うんですが」

「さっきのおどかし演出って、なんですか」

MCは恐る恐るマジオに問いかけると、何かを叩くような小さな音がかすかに聞こえた。

「ほら、さっきからこう、後ろのモニターの向こう側からというか、廃寺から金属で何かを叩くような鈍い音がかすかに聞こえませんか?」


まるで、釘で打ち込むような音みたいな……。


と、マジオが言い終えたらみんなの顔が引きつった。

 こんな本来人気のない廃寺から釘で打ち込むような音が聞こえるってことは、憎い相手に見立てた藁人形に釘を打ち込む音じゃないのか?

 よく耳を澄ませると、かすかにではあるが一定の間隔で『コン……コン……』と風の音に交じって何かを叩くような音が聞こえる気がする。

 少なくとも、俺には釘を打ち込む音なのかはわからないが、マジオだけでなく周りもそう聞こえるらしくざわついていた。

 『確かに、釘を打ち込む音に聞こえるよな……』

 『ほら、またあの廃寺から聞こえる!絶対に丑の刻参りしてるって』

 夜遅くの誰もいない山奥の神社で白衣を着て灯したろうそくを突き立てた鉄輪を頭にかぶった姿の女が誰かを呪うために釘を打ち込む……。

 そんな会談はなしにありがちな頭のイメージが浮かんでいく。

 マジオだけでなく周りがこうざわついていくとだんだん、俺にもそう聞こえてくる。

 もしもそうだったとしたらやばいんじゃないか?

 「いったん中断して、後ろの廃寺の方の様子をみんなで見に行きません?言いだしっぺの僕が先頭で」

 重い空気沈黙を破ったのは、マジオだった。

 「そうですね。このまま、続行しても気になるでしょうし、もしも何もなかったら再開しましょう」

 ほっとした表情を浮かべるMCの一言で、俺たちはステージ裏にある廃寺のところへ向かうこととなった。

 俺としても、このまま謎の音の正体のわからないまま閉鎖村の続きをしたところで、気になってゲームに集中できそうもない。

 それに、周りはそうは思っても実は丑の刻参りしている奴なんていなくて、ただの勘違いってだけかもしれない。

 少なくとも、俺はそう思ってマジオたちについていった。

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