第4話 優夫との再会

ようやく、ハロウィンイベントの会場にたどり着いた。


 もう何年も使われていない廃れた廃屋に似つかわしくない【閉鎖村20周年記念ハロウィンゲームショー】と書かれた看板が取り付けられ、神社らしき建物の前に特設の会場が設置されていた。


 そこに、今回のハロウィンイベントに参加する人が20人弱くらいいた。


 人がいて良かった!


 ここへ来る前に一人でずっと人気のない廃れた山奥を走り続けていたので、正直怖さとか不安とかでいっぱいになっていたが、俺と同じ参加者がいて、身体の緊張がほぐれてきた。


 そのせいか、さっきまで不気味に思っていた山々の風景が、今では美しい山々が広がって新鮮な空気が漂う風景へと変わっていく。


人が何人かいるだけでこんなに自然の印象が違うのか。と思わず独り言を呟き深呼吸して新鮮な空気を堪能した。


 十分に自然の空気を吸い込んで満足した俺は受付の係に受付を済ませ、会場の椅子に座ると俺を呼ぶ声が聞こえる。


「おーい!ジュンヤ!久しぶりだね!」


 声の主は目の前に現れた小太りでおっとりした男だったが、ぱっと見誰なのか分からない。


「ジュンヤ?僕だよ!吉岡優夫《よしおかまさお》だよ!小学校の頃たかしたちと一緒にここへ来ただろ?僕もたかしに誘われてきたよ!」


「あ!あの優夫!!!お前なのか!?お前、しばらく会わないうちに印象変わったなぁ」


 優夫の小学校の頃はどちらかというと瘦せ型で内気のおとなしかったと思ったが、今では雰囲気が変わって恰幅の良い小ぎれいなアラサーになっていた。


 だがよく見ると、自転車事故で転んだ時にできた右のうなじの傷が薄っすらあって、ほんの少しだけ小学校の頃の面影がぼんやりと残っているから辛うじて優夫だって事が分かる。


 たしか、この前のたかしの話だと優夫はSNSで有名な漫画家になっていたっけ。


 これが、時の流れなんだろうなぁ。


「いやぁ、最近運動する機会がなくって見ての通りさ」


 優夫は自分のぽっこりお腹をさすって笑みを浮かべて自分の近況を語ってくれた。


 優夫は高校卒業後、漫画家を目指して専門学校に通っていたけど、どこも取り合ってくれなかったこと。


 あるとき、漫画仲間がSNSで自分の漫画を投稿して人気になっているのを知って真似をしたら、人気が出てやっと広告収入や企業案件などで食べていけるようになったこと。


 SNS繋がりでたかしと再会してハロウィンイベントに誘ってくれたこと。


 俺が知らない間に夢に向かっていく優夫の眼はあの頃のまま純粋で輝いていて眩しいと思うし、友達を応援したいと思うが、少し羨ましい気持ちもあって素直に喜べない。


 だが、今はこの久しぶりの再開を楽しもう。そう思って優夫の話に熱心にうなづいていて、自分の近況を話す。


「ところで、たかしは来てないのか?」


「あぁ、そういえば、たかしは来てないね。ちょっと僕から連絡してみるよ」


 そういって優夫はスマホを取り出してたかしに電話を掛けたらすぐに繋がった。


「もしもし?たかし!今どこにいるの?あと少しでイベント始まっちゃうよ」


 とほんの少し大きい声で優夫はたかしに話しかけていたが


「え?それってどういう事?」


 表情は一気に真顔になった。


 優夫のスマホ越しではたかしが何を話しているのかは分からないが、優夫の顔から笑顔が消え、どんどん真剣な顔になっていく。 


 そして優夫はみるみる眉間にしわを寄せてたかしの話を聞いているので、何かたかしの身に何かが起きているのかだけは伝わってくる。


 あいつの身に何が起きたんだ……?


 俺はその場の話しかけにくい優夫の雰囲気の中、ただ茫然とたかしの心配をするしかなかった。


「とりあえず、たかしたちは無事なんだね」


 優夫は安堵し、ほんのすこし顔が緩んできたが、しばらくたかしの話にうなづいている。


「ジュンヤ君」


 そんなとき、俺を呼ぶ懐かしい声が聞こえる。


「久しぶりだね」


「おぉ、マサルじゃないか。久しぶりな!」


 後ろを振り向くとマサルがいた。


「マサルもたかしに呼ばれてきたのか!懐かしいなぁまた会えるなんて」


「そうだよ。ジュンヤ君来てくれてうれしいよ」


 マサルはあの頃のまま微笑んでいてほとんど変わっていない。


「しっかし、マサルはあの頃から変わっていないな」


「そうかな、ジュンヤ君はどうなの?」


「あぁ、俺はいつも通りさ」


 俺はつい最近仕事の同僚とゲームで遊べなくなったことやたかしや優夫の近況をマサルに話し、それを聞き上手なマサルうんうんとうなずき時折笑顔を見せる。


 すると、俺が話し終えると後ろから肩を叩かれ、振り向くと怪訝そうな心配そうな顔の優夫がいた。


「おい、ジュンヤ君!?今の大丈夫?そろそろイベント始まるけど」


「あぁ、そうだった!それよりもたかしはどうなったんだ?」


「たかしは今から知り合いの霊媒師を連れてこっちに向かっているけど、道に迷っててだいぶ遅れるそうだって」


「なんだ、とりあえずたかしは無事なんだ」


 さっきまでたかしの動向が気になっていたが、単純に道に迷っているのか。


 たかしと優夫のやり取りでただならぬ空気になっていたから何か犯罪か何かに巻き込まれていたと思ったよ。


 あいつ、昔から変なことに巻き込まれてやすいトラブルメーカーなところがあるし、今回はそんなトラブルじゃなくてホッとした。


「それよりも、ジュンヤ君こそ本当に大丈夫?あとでたかしが連れてきた霊媒師に見て貰ってお祓いしよう」


 優夫は重い病に侵された病人を見るような目で、俺の目を見つめている。


 なんというか、よくドラマやアニメでよくみる「病人に病名を伝えるかショックを受けて体調を悪化させないように伝えずにしておこうか」と悩む家族のシチュエーションに近い雰囲気に俺は戸惑った。


「え?俺、何か後ろに幽霊が見えるのか?」


 もしも、優夫の目に俺の他に幽霊がいるって考えたらと思うと、見たい反面、ちょっと怖く感じる。


「少なくとも、僕は霊感がないから幽霊は見えないけど、ここ心霊スポットだしさ」


「なんだよ、驚かすなよ……。まぁ、そうだな。幽霊に取りつかれたらたまったもんじゃないな」


 そういって俺と優夫とマサルの3人で特設会場に向かってハロウィンイベントに参加した。


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