第3話 YouTuberをひき逃げた犯人

たかしから聞いた話によると、テツヤがゲーム実況で有名な大人気YouTuberをひき逃げした犯人で現在刑務所にいるようだ。


 ……小学校の頃のテツヤは、仲間思いの友達だ。

 あの日の夏休みの自由研究で『旧日暮村跡地』へ行って迷子になったたかしを必死で探していたあの彼が、人をひき逃げして捕まったなんて信じられない。


  さっきまで俺はテツヤの話をしたがらないたかしに対してイラっとしていたが、そんなイライラ感はスッと引いて


 「うん、ジュンヤも信じられないよな。小さい頃みんなで遊んでいたテツヤがひき逃げの犯人なんてサ。オイラも」


 たかしの表情はいつの間にか仏頂面になっていて、冷たい目で俺を見つめていた。


 「でも……まぁ、くわしくは『マジオひき逃げ事件』で検索すればその時のモザイク処理された動画がまだあると思うのだが、あの血まみれの人間を目の前にみたオイラからすればあいつはひき逃げ犯だ」 


 俺の部屋は少し暖房をつけているはずなのに、寒気が全身を襲って冷や汗が額から喉仏まで滴り落ちる。


 「自分の車で轢いた上に血まみれで倒れた人を助けることをせずに逃げた犯罪者になり果ててしまったのだよ。あの男は」


 俺はもう、何も言えなくなくなった。


 たかしの目には冷たい視線の他に、変わってしまったかつての友達に対する悲しみとか犯罪に対する憎しみとかが積み込んでいる気がして、なんて声をかければわからなかった。


 たかしからYouTuberデビューした話を聞いた時は「俺の家の近くに死にかけのYouTuber転がっていないかなぁ、そしたら俺も人気YouTuberになれたのに」なんて不謹慎な事を思っていたが。


 もしかしたら、そんな俺の心の声を見透かされたのかもしれない。


 「あぁ、ごめんよ。空気を悪くしてサ」


 いったん、話し終えるとたかしはいつもの笑顔が戻っていき、俺もほっとした。


 「今日はそんな話を来たわけじゃないのヨ。もう起きたことは仕方ないし、ハロウィンイベントで会おうぜィ!あの頃の楽しい思い出も、今後の事も話そうよ!」


 そんなたかしとのzoom電話でのやり取りを振り返っていると、ようやく埼玉県までたどり着いた。


 都市部は割と東京に近くてお洒落なお店やらショールームやらで賑わってはいるが、一歩外れるとガラリと変わり家もまばらになってだんだん古い家や道路が目立つようになる。


 山のふもとまでいくとそこだけ時間が止まったかのようだ。


 昭和の雰囲気の漂う寂れた古い看板や瓦屋根の建物がちらほらと見えていき、崖に土砂崩れや落石などを防ぐ防護柵やらベルギーワッフルみたいな四角いマス状のコンクリやらが張られていた。


 よくみると、最近設置されたであろう真新しい土砂崩れ防止の鉄とコンクリの防波堤が設置されていて、道の隅にタンクローリーや大型のトラック、資材が空き地に積まれているから、これから自然災害の対策の工事をしている事がわかる。


 だが、旧日暮村跡地へ続く山奥へ向かうと次第にアスファルトのひび割れや老朽化した防護柵や防波堤にコケや雑草が目立つようになっていく様は、だんだんと昔の時代へと進んでいくような錯覚に陥っていくようだ…。


 そう、優夫やたかし、マサル、テツヤとテツヤの兄たちと小学校の夏休みにここへ行った時のままだ。


 ほんの少しずつだが、当時の小学校の思い出が道に進めば進むほど思い出してくる。


 あの頃優夫が車酔いで気分が悪くなった時に、テツヤが背中をさすって落ち着かせようとしたっけ。


 テツヤの兄とオカルト研究会のメンバーと一緒に行って、彼らの研究しているオカルト話をみんなで聞いて盛り上がっていたっけな。


 確か、テツヤの兄が「子供の方が霊感が強いから連れてきた」って理由で当時小学校低学年だった俺たちを連れていってくれたんだよな。


 ……なんで、あいつはひき逃げで捕まったんだ?


 一生懸命当時の思い出を思い出して、テツヤのひき逃げの事を思い出さないようにしているが、どうしても今のテツヤの事が気になる。


 あいつとの連絡先が分からないからもう真相は聞きようもないからどうしようもないってことは頭では分かっているが……。


 そのとき、3台のかなり古いワンボックスが俺の車を追い越して通り過ぎていった。


 俺は思わず絶句していた。


 一瞬の出来事だったが、あの車の中にあの頃の俺やたかし……いや、あの頃のメンバーがあの車に搭乗している……!?


 いや、いくら何でもそれはありえない!!


 そんな時空が歪んで20年以上前の日暮村にタイムスリップしたなんて、非現実的な事なんて起きるわけないだろ……?


 でも、あんな20年以上も前の車なんて3台も見かける事なんてあり得るのか?


 いや、きっと俺の見間違いなのだろう。


 きっと、あの頃の思い出を思い出したときに記憶と現実がごっちゃになっているに違いない。


 そう自分を落ち着かせるために少しアクセルを踏んで早く目的地へと進んでいっていたら、いつの間にか旧日暮村跡地の入り口からほど近いコンビニのだだっ広い駐車場までたどり着いた。


 俺はやっと、昔の寂れた風景から抜け出して普段利用しているコンビニを目にした時には正直ほっとした。


 まさか、コンビニがこんなにも恋しくなるなんて思いもしなかった。


 それに、コンビニの駐車場には今回のハロウィンイベントの参加者であろう車がまばらに並んでいて安心感も感じる。


 長い運転の疲れを休憩する為にコンビニに立ち寄ってトイレを済ませ、熱いお茶のペットボトルとコンビニ弁当を買った。


 そして弁当の方をコンビニの店員にレンジで温めて貰っている間、ふとコンビニの窓の方に視線を向けると小柄の女性が横切った。


 ガラス越しで背が小さくて髪も長くて表情がよく分からないが、どこかで見たような顔で一瞬こちらを睨んだような気がして、手には銀色の何かを持っていた。

 誰だ?あの少女?いや女性?手に持っているのは鉈?

「あの、お客様、お弁当暖まりましたが」

 とコンビニの店員に声を掛けられてふと我に返った。


 きっと俺の勘違いだろうな。さっきのワンボックスカーと同じく。


 あんな知り合いの女なんて知らねえし。見間違いだろ。

 俺はそう思い、弁当を平らげてから入り口まで歩いて向かった。

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