第5話 結局のところ(蛇足な話)
「あ~、午後の授業まったく身に入らなかったぁ。」
ボヤキながら校舎内を歩くサチに、ナギが追いつく。
「何ふらふら歩いてるのよ。高町君待たなくていいの?」
顔を覗き込むようにサチの方を向く。
「サッカー部は競技場が使える日なんで、放課後はバス移動だよ。」
あまり興味なさそうに「そうなんだ」と返すナギに、はたと思い出したサチがその顔を掴む。
「そうだ、短歌の事、詳しく話しなさいよ。」
顔をムニムニと揉みながら問い詰める。
顔を歪ませながら苦笑するナギだったが、サチの手を剝がしながら説明を始めた。
「お兄ちゃんが知らない感じだったのは、単純に忘れていたからだよ。」
事も無げに答えるナギに驚くサチ。
「なんで自分の作品でしょ?」
「お兄ちゃんは根からの編集体質なのよ。 その為、あまり自分の作ったものに拘りが無いの。」
「そ、そうなんだ。」
長年遊んでいた幼馴染の意外な一面に何とも言えない表情になる。
「それに、あの短歌は恋愛歌じゃないのよ。」
当時を思い出しながら話を進める。
2年前、タイチは作家志望であった。
しかし当時の文学部にはより作家として優秀な先輩がおり、早くも己の限界を感じていた。
そこでタイチは決別の意味でこの詩を詠んだのだった。
多くの作家志望がひしめく中で、目標とした先輩の背も見ることがかなわない自分は最後に夕暮れの中、何を思っているのかと。
「なるほどね。憧れについての短歌だけど、惜別の歌だったんだ。」
次第を聞いたサチは寂しそうにつぶやいた。
「でもね。今朝私から以前お兄ちゃんが作った短歌だって教えたところ、『僕は惜別の詩として書いたけど、詠む人によっては恋愛歌にもなるんだよ』だって。」
ナギはそれで納得しているらしいが、サチはピンとこなかった。
書き手と読み手が違うことで、印象が変わることがあるんだろうか。
ただ今回、高町は恋愛歌として詠んでいたことは間違いない。
ならばそんなこともあるのかもしれない。
ただ、2人は1つ忘れていることがあった、なぜ屋上が施錠されていたのか。
また高町がどこで短歌を詠っていたのか。
いずれも些細なことであったが、その問題にぶつかる日が来るかも知れない。
文学部少女データファイル 聞惚 -ききほれ- サイノメ @DICE-ROLL
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