後日談 移ろう世界

仙台 とある高級ホテルの最上階


「見つけましたよ!また飲んでるんですか!?」

「いいじゃない…私のお金で飲んでるんだから」

「月いくらお酒に使っていると思ってるんですか!?これ以上私の仕事を増やさないでください!!」


咲島さんとかずちゃんと私の3人でお酒を飲んでいると、お迎えがきた。

私のいない15年で組織が大きくなり、自分の代わりをしてくれる人間が増えた事で仕事が減った咲島さんはかなり駄目な大人になったらしい。

酷い時は月に何百万と言うお金をお酒に使うほど飲むようになり、頻繁にかずちゃんを呼び出しては2人で飲んでいたみたいだ。


いくらスキルの効果でお酒に強いとはいえ流石にそれだけ飲むと体に毒だ。

そう心配して色々な人が酒を控えろと言うけれど、それすら治してしまう『フェニクス』。

その上空いた時間でダンジョンに行くようになった咲島さんは、運動量も増えたので健康体そのもの。

健康診断の最良評価の紙を突きつけられては誰も文句は言えない。


金銭面も咲島さんの資産を考えれば全く問題ない。

なんだったらダンジョンに行って働いた儲けで数倍稼げてるからむしろプラス。

そしてお酒を飲む店のほとんどが『花』が経営する場所だから、結果的に『花』全体で使えるお金が増える。

そんな状況のせいで聞く耳を持たない咲島さんは、小言を言われながら度数の高いお酒を一気飲みする。


私も少し心配だけど……誘われて咲島さんのお金で飲みに来てる手前文句は言えない。


「……ん?こんな時間に業務連絡?」


小言を右から左へ流している咲島さんに電話が掛かってきた。

あのスマホは『花冠』の業務連絡用か。

と言うことは裏側で何かあったかな?


咲島さんはスピーカーで電話に出る。


…この店は『花』の経営する店な上に、咲島さんが来ているとわかって誰も店に来ないから実質貸切。

従業員も『花冠』寄りだから問題無し。


「私よ。何か進展があった?『向日葵』」


『向日葵』か…アメリカで何かあったとか?


『咲島さん!!お、落ち着いて聞いてください!!!ふぅ〜!!!』

「私は落ち着いてるわ。今日もワインは美味しいもの。落ち着くのはあなたよ」


電話に出ながら優雅にワインを口に流し込む咲島さん。


『アメリカの隠していた秘密が暴けたんです!!』

「へぇ〜?まだ2週間しか経ってないのにやるじゃない。で?なんだったの?」


結果が気になる咲島さんは、グラスに残っていたワインを全て飲み干す。

私も続きが気になるし、次のお酒を飲みたいから、日本酒を飲み切る。

そこへ……


『ダンジョンです!!アメリカのカリフォルニア州にダンジョンが出現したんですよッ!!!』

「「――――ッ!!?」」

「うわっ!?神林さんと咲島さんがマーライオンに…」

「なんであなたはそんなに冷静なんですか…?」


私と咲島さんは『向日葵』の言葉に口に残っていたお酒を吐き出してしまう。

かずちゃんはそれを見てボケ、咲島さんの迎えに来た人はかずちゃんの冷静さにツッコミを入れる。


呼吸を整えた咲島さんは、グラスを遠ざけてスマホをひったくる。


「どういう事?まさか日本以外にダンジョンが出現したと言うの!?」

『ええ。この目で確認し、中には入って内部を調査した私が保証しますよ、主君』

「『菊』!あなたもそっちに居るの!?」


あちらに居た『菊』がダンジョンがあったと言う報告が嘘ではない事を事細かに説明する。

それは確かにダンジョンのそれと酷似し、聞けば聞くほどダンジョン以外に考えられない。

私は、にわかには信じられなかった…


『おそらくアメリカが隠していたのはこのダンジョンで間違いないでしょう。ですが、日本ほど立地はよくありません。なにせ洞窟の中にあるのですから』

『今は咲島さんからお借りした人員を使って他にアメリカにダンジョンが存在しないかの確認と、私の部下を総動員し、全ての業務を一時停止させて全世界においてダンジョンが出現していないかの捜索をするよう命じました。えっと!それで!あの!!』

『『向日葵』。報告は私がするから一旦あっちで休んでなさい―――ゴホン!こちらで報告できる内容は以上です。私の見立てではおそらく他の国でもダンジョンが発生していてまおかしくないと考えています。…いえ、おそらく日本にも今確認されてるダンジョンの他に未発見のダンジョンが新たに出現しているはずです。宴に水を差すようで申し訳ありませんが、今動かせる人員全てを使って日本中をくまなく捜索下ください。こちらで何か進展があればまた報告いたします。それでは』


スマホ越しに告げられた衝撃の事実。

私達は何も言えず、ただ『菊』と『向日葵』の言葉に耳を傾ける事しか出来なかった。


その後、宴どころの話ではなくなり私とかずちゃんは一旦家に帰ることに。

咲島さんはかなり慌てた様子で各方面に電話を入れてすぐに行動を開始していた。






それから1週間後、世界に衝撃が走るニュースが報道された。


中国の山奥でダンジョンが見つかったと言うニュース。

そして、それに呼応するようにアメリカ、ロシア、韓国、フィリピン、ベトナム、タイでもダンジョンが見つかったと言うニュースが報道された。

更にはそのダンジョンが見つかった国々では覚醒者が現れ、私たちのようなギフターも生まれているらしい。


そんな混乱と騒動の中、私とかずちゃんはまるで宇宙空間のような世界にある神殿へと足を運んでいた。


『おやおや。また私に挑みに来たのかな?』

「しらばっくれるな!これはどう言う事だ!!」


かずちゃんが見たこともない様な力強く、大人びた声で蝶の神に怒鳴る。

15年でかずちゃんも成長したと言うことを始めて実感したかも知れない。

それくらい、それまでかずちゃんは15年前と変わらない様子を見せてくれていたから。


『テストは終わったんだよ。これから私のことわりをこの星全体へ広げる。きっと新たなドラマが生まれ、私を楽しませてくれる事だろうね』

「ふざけるな!」

『ふざけてなんか居ないさ。それに、いつからそんな勘違いをしたのかな?“自分達は特別”だなんて』


何処まで行ってもこの邪神は享楽主義者だ。

世界を意のままに塗り替え、作り替える超越者。

そして、その世界を地獄に変えようとも面白ければそれでいい。

その過程で起こる悲劇などまるで眼中にない。

何故ならその視点は常に遥か高みにあり、この邪神は邪なる存在であったとしても紛れもなく『神』なのだから。


「こんな事をしても許される。お前が神の中でも高位の存在であることは知っている。けれどこれは!!」

『それを君が言うかい?知らないとは言わせないよ、君の都合で消された人間。1人や2人ではないはずだけど?』

「それは……」


蝶の神の言葉に即座に反論できなかったかずちゃん。

そこへ蝶の神は追撃をする。


『元よりこの世界は私のおもちゃ箱だ。きみたちは私の気まぐれで自由を享受していたにすぎない。勘違いするなよ?下級存在』

「……強ければ何をしても構わないと?」

『自己紹介をしているのかな?私は君のことをよく知っているから必要無いよ』


どんな言葉も蝶の神には響かない。

それどころか…


『まあ仮にそれを世界の恵まれない子供が言ったなら一計の余地はあった。だが君はどうかな?富も名も地位も力も愛も。全てを持ち、私からの加護と恩恵を一身に受けた君が、ねぇ?』


……それを言われると何も言い返せない。

どの口がそんな事を。

そう、恵まれない者達から言われておしまいだ。


『それに、仮にこの世界が変化したとして、君にはそれほど脅威はないはずだけど?』

「………」

『この世界において私を除くと唯一の神格。不老不死にして人間などと言う下級種族が背伸びをしても届かない頂に立つ存在。なんだったらこちら側に引き入れてあげようか?君はさっき私を高位の神だと言った。それに間違いはない。だからこそ、私が君を正式な『神』として認め、こちら側へ来る権利をあげよう。もちろん、将来的に神格になるであろう神林紫も含めてね?』


正式な『神』。

蝶の神が作り出したカミなどという紛い物ではなく、“本物”の神。

その領域へ立つことを蝶の神は選択肢として提示してきた。

私は…かずちゃんの判断に任せよう。


「……まだそんな物になるつもりはないよ。お前の部下として頭をヘコヘコ下げて働くのは御免だ」

『ふふっ、生意気な事を言うガキだこと。私も君みたいな力もまともに扱えない不完全な神格要らないよ。力を自力で扱えるようになってから出直してきな』


それだけ言い残し、私達の前から姿を消す蝶の神。

私達はそれを見届けると、1言も話さずに家へと帰る。


その後、私達はここであった事を咲島さんへ伝え、咲島さん経由で政府や世界中へこの話が知らされた。

ダンジョンの出現から半世紀と少しが経ったこの今、世界は再び大きく変わろうとしていた……





――――――――――――――――――――


後日談は以上となります。

また時間とやる気があれば本編に関係のない2人のイチャイチャや、本編では関わらなかった組み合わせの蛇足編を作るかもしれません。

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リストラされた元社畜OLは、美少女とダンジョンへ行く 〜仕方なくなった冒険者は天職でした〜 カイン・フォーター @kurooaa

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