第5話 破壊


先程まで囚われていた子供がこちらを見てくる。その表情は恨めしく、まるで寝起きで機嫌のわるくなっている子供そのもの。露が聞く。


「えっと、寝ていたの?あんな場所で?」


聞かれた子供は振り返る。そして寝ていたという場所に顔を向けたあと周囲を見渡した。その表情からは機嫌の悪さは消え失せ、かわりに唖然とした驚愕の色で覆われていた。


「なんじゃ、この有り様は......城が、こんな」


子供は信じられないものを見たかのように、足元がふらつきそれを露が支えた。


「大丈夫?」


「だ、大丈夫なものか......ちょっと眠っていた間に、城がボロボロに......」


「ちょっと眠っていた?」


「そうじゃ。少し前に大きな戦があると、姉さまが戦地へ旅立たれて......帰還されるとの報せがあり、その帰りを待っていると、母上に少し眠れと言われて......」


その時、子供がハッとする。


「母上と父上は!?」


露の目を見る。しかし数秒後、答えが返ってこない事で知らないと判断したのか、螺旋階段へを物凄い勢いで降りだした。


「どうするの!?」


(追うぞ!せっかく助け出したのに魔物に殺されては意味がない!)


「りょうかーい!」


露は走り出し柵を飛び越え、螺旋階段にある手すりに腰を掛け滑って下りだす。いやどこのアクション映画だよ!


しかし降りるスピードはものすごく、あっという間に男の子と並ぶ。


「やっほー」


「うおお!びっくりしたぁ!?」


「少年、もうこの城は危険だよ。多分、ご両親もどっかに避難してるはずだし、君も逃げなよ」


「わかったようなことを抜かすな!僕の父上と母上はこの国の王と王女だぞ!城を放置して逃げるなんて有るはず無い!」


まさかの王子だったか。いや、物言いがみょうに達観しているなとは思っていたが......まさか王様の子供だったとは。


しかしどうしてこの子だけがここに置いていかれたんだ?


「ええい!お前らいつまでついてくるのだ!」


心底うっとおしそうにいう王子。


「いつまでって、この城危ないっていったじゃん?護衛してあげるよ」


「護衛だと!?ならば許す!ついてこい!」


良いんだ!?意外とすんなり受け入れたな。


そうして調理場から下に四つほど降りたフロアにたどり着く。そこはおそらく一階だった。正面には外へ通じていると思われる扉があり、反対には幅の広い大階段がある。


勢いよく走ってきた王子だが、一階へたどり着いた時足が止まる。


「......皆、死んだのか」


ぽつりと震える声で彼はつぶやく。王子の目の当たりにしたのは、床一面にある血の跡や白骨化した遺体。おそらくはこの城に仕えていた人間達だろう。露が言う。


「んー、どうかなぁ。この遺体が城の人だとは限らないし」


「いや、城の人間だ。僕にはわかる」


「なんで?」


「王家の血を引く者には異能が発現する。僕にある異能は【異体共命】......昔、命を分け与えた者が今、僕に教えてくれた......この城でおきた惨劇を」


辺りを見渡す。しかし他に誰もいない。


(命を分け与えたものって?)


露が俺に聞いた。


(いや、わからん......)


「お前達」


「ん?」


「ひとつ頼みがある」


「?」


「一緒に、姉さまを探しに行ってほしいのだ」


「君のお姉さんを?」


こくりと頷く王子。


「シヴァルが言っておる。父上や母上、他の者はみな死んだと。しかし、唯一姉上だけはまだ生きておるらしいのだ」


「シヴァル?」


「ああ、僕が命を分け与えたものの名だ。この場にはおらんし姿を見たことは無いが、まあ守神みたいなものだ」


「なるほど......お姉さんを探すってどこへ探しに行くの?」


「それが、おそらくはこの城の中におるらしい」


「生きてるの!?」


「うん」


にこりと笑う王子。嬉しそうなその表情は年相応に見えた。


「しかしどこにおるのかがわからんのだ。だから見つけて欲しい......僕にはもう姉さましかおらん。頼む」


(王子の姉はおそらく囚われているな)


(あ、やっぱ?多分この子と同じ状態になってるよね)


(ああ。でなければ俺たちより先に王子を解放してどこかに逃げているはずだしな)


というより何故この王子と姉だけが封印されていたんだ?王と王妃が殺されたのに子供だけが生き残った理由は......。


(どうするの静?この子のお願いは受ける?) 


(ああ、うん)


(わかった)


「いいよ、少年。君のお願いを受けてあげよう」


「おお!ホントか!?二人共ありがとう!!」


「え?」


「?、どうした?」


「二人って......」


「なにかおかしなこと言っとるか?お前の中には二人おるだろ?」


「見えるの?」


「うむ。僕は魂を知覚できるからな!父上からはお前はこの国の宝だと言われる程の魔力もあるし、いわゆる天才なのだ!はっはっは」


(露、交代してもらえるか)


(あいよー)


「お、入れ替わったのか?」


「はい。王子、私の名は静と言います。さっきのは露」


「うむ、セイにツユか。僕はロウ・デルナリア・シヴァルーデ。ロウと呼ぶがよい」


「わかりました、ロウ王子」


「いや、ロウで良い。あと畏まった話し方もしなくてよい」


「しかし」


「よい。もう我が王家は滅んでおる。今の僕は何者でもない」


「......わかった」


「時にセイよ。姉上を探してもらうにあたって褒美を考えておけ」


「褒美?」


「ああ。僕にできることはもはや少ないが、できる範囲で叶えてやろう」


(はいはい!ダガーか短剣がほしいでーす!)


確かに鉈を持ち歩いてみてわかるが、これを何度も振るのは結構辛いな。女の体だから尚更なんだろうけど。でもそれより先に。


「うむうむ。あ、そうだ。まずはせっかく来てもらった客人だ。このようなありまさまでも、食事のひとつでま出してもてなさねばな。褒美は色々考えておけ」


「あ、うん」


「こっちへ来い。おそらく無事な部屋がある。食べられるものもな」


「ほんとか!?」


「ああ、おそらくな」


先導する小さな体。その後を俺は追っていく。当然のように遺体はそこら中に放置されていて、この襲撃がいかに大きな被害をもたらしたのかがわかる。


そんな中をずんずんと進むロウ。まだ子供だというのに動揺の見えないその様子にすごい精神力だと舌を巻かざる得ない。......いや、おそらく姉の存在が大きいんだろうな。


やがてひとつの部屋へとたどり着く。


「ここだ」


「扉が赤く光ってる」


「うむ。この扉は特殊なものでな。魔術により施錠を施されているのだ」


「鍵がかかっているということ?」


「そうだ。扉全体に防壁が発生している。鍵を開けなければ解けない」


「ロウは鍵を持っているのか?」


「ああ。といっても鍵は僕の魔力だ。これはあらかじめ記憶した魔力でしか開けないようになっておる......試しにセイ、開けてみろ」


なるほど。この世界ではこうした魔法や魔術によるセキュリティがあるのか。俺は扉にあるドアノブに触れた。


――パリィーン!と何かが割れる音がした。


「「え?」」


それと同時に扉の赤い光が消失。俺とロウが顔を見合わせる。俺はドアノブを回し、それを引くといとも簡単に開いた。


「「......え?」」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界は死にゲーのように カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画 @kamito1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ