第2話 探索


――俺は、首を斬られ死んだ。しかし、目を覚ますとまた黒い部屋に居た。


あの時感じた確かな死の恐怖、首に走った深い痛みは間違いなく本物だった。


俺は暗い道を壁伝いに歩き再び窓の扉を開いた。暗い部屋に光が差す。


「......あの時、間違いなく服に血がついていた」


(黒いからあんまりわからなくない?)


「靴底のソールも削れてない」


(あ、ホントだ。骸骨に斬られてバックステップしたとき削れたのに復活してるね。時間が戻ってる?)


「かもしれない......開けたはずの窓もまた閉まっていたし。それか」


(それか?)


「骸骨に斬られたのは夢だったか、か」


(夢か......)


「でも、だとするならどこからが夢だったのか。現実的に考えると、ここが何処かもわからない今もまだ夢なのか」


(ちょっと体かわって)


「ん?ああ」


露に体をあけわたす。すると彼女は自分の頰をパンと叩いた。


(痛え!!)


「静、これ夢じゃないっぽい!」


(えぇ......脳筋の極みだな)


「うへへ」


(褒めてねえよ)


「でもこれでわかったじゃん。夢じゃないって」


(だな。そうとなればまた食料を探さなきゃな......体かわってくれ)


「いや、私が主導でいこう」


(さっきの気にしてるのか?)


「まあ、一応。私のミスで静を死なせちゃったのは後悔してる」


淡白な言葉とは裏腹に。露から伝わってくるのは怒りと後悔。自分を許せない、そんな色の深い感情だった。


(わかった。疲れたら交代してくれ)


「りょうかーい」


また窓枠から外へと出て歩く。そしてさっき俺たちが死んだ場所へたどり着く。そこには赤と黒を混ぜたペンキをぶちまけたような俺の血があった。


(まるで殺人現場だな)


「いや殺人現場でしょ」


(あ、そっか。てか、これ......俺の血だよな?)


「そうだと思うよ。あんまり乾いてないし......私たち以外に殺されている人がいれば別だけど」


(いやこの血でついた足跡は履いている靴と一致する。俺たちの血だ)


「ホントだ」


露が靴を脱いで見比べている。


(しかし、体の傷や服、傷は元通りなのに血はそのままなんだな)


「そうだね。変なの」


そのとき露の視線が扉へ向けられたことに気がつく。そこはさっき俺たちの命を奪った骸骨がいた部屋だ。


「扉が閉まっている」


(ああ、うん。あの骸骨がしめたのかな)


「どうなんだろう......っていうか、静お願いあるんだけど」


(え、いやダメだけど)


「ええっ!?まだ何も言ってないじゃん!!」


(どーせまたあの骸骨と戦わせろっていうんだろ)


「ぎくっ!何故わかったし」


(付き合い長いんだからわかるよ。お前、ゲームでも遊びでも負けず嫌いだからな)


「じゃ、じゃあ」


(また殺されたらどうするんだよ)


「また復活できるかも?」


(保証がない。それよりも今はやることがあるだろ)


「うう......はい。食糧さがします」


(よろしい。では先へ進んでください)


「あい」


俺はふと気になる。露は一度戦った相手には必ず勝ってきた。ゲームでも現実の戦闘でも。


(一応聞いとくけど、あの骸骨......お前勝てると思うのか?)


「え、やっていいの!?」


(いや、ダメだけど!もしもやるとして、お前は勝てるビジョンは浮かんでるのか?)


「うん、まあ。さっき戦った時にいくつか考えた戦法があるんだよね。そのいずれかが当てはまっていれば勝てると思う。......まあ、駄目でも逃げられはすると思うから失敗しても死にはしないかなって」


(確かに交戦時には扉が開きっぱなしだったからな)


というか、あの数秒の戦いで勝てる戦法を思いついたっていうのか。


(ま、いつまでも考えてても腹が減るばかりだ。とりあえず食糧。先を急ごう)


「うん、わかった」




長い城壁伝いに作られた通路を先へ進んでいく。普通に歩くのもわりと危険な状態で、場所によっては下の通路が見えている。部屋もいくつかあったが、崩れかけていたりして扉が開かないか、天井が落ちて潰れているものばかりだった。


......なかなか城の中へ侵入できる部屋がないな。




「ここってあれだよね」


(ん?)


「普通の城じゃないよね。大きすぎない?」


(確かに規模が異常だな。殆ど岩と同化していて全貌はわからないけど多分これは城塞って感じがする)


「城塞かぁ!武器とかあるかな」


(武器庫とかにあるんじゃないか?)


「やったー!」


テンションの上がりどころがよくわからんが、武器は必要だ。あの骸骨みたいなのがおそらく他にもまだいるだろうし、丸腰じゃ太刀打ちできないだろうからな。




「あ、ここ」


露が立ち止まったそこは、細く内部へ続く建物の隙間にある通路だった。日陰になっていて少し薄暗い。


(行こうか)


「うん」


進んでいくと突き当りは岩で塞がれていて先へは進めなかった。しかしその脇、壁が崩れていて中へ侵入できそうな場所がある。人一人が入れそうな破壊された穴。おそらく人為的に壊されたものだろう。


「嫌な感じはしないし、大丈夫そうだけど......行く?」


穴から内部を見ると、その部屋は会議室のように見えた。薄暗くてあまりよく見えないが、長机と並んでいる椅子でそんな印象を受ける。


(行こうか。慎重にな)


足を踏み入れると、俺は生臭さに気がつく。


(え、なんか臭いけどホントに大丈夫かこれ)


「確かに臭いね。でも近くに気配は感じないから大丈夫」


(魔物いるのは確定なのか)


「え、だって骸骨いたでしょ」


(いや、そりゃそーだけど)


「?」


露は受け入れるの早えな。俺はまだどこか現実味がない。それこそ未だ夢を漂っている感じだ。


部屋の中を見渡す。机には外壁を破壊したときの破片がいくつか乗っかっていたが、壊されていない。倒れた椅子もその時の衝撃で横たわったものだろう。


つまりここで争った形跡はないことから、人の居ない間を狙った可能性が高く、計画的に城への潜入をした輩がいたということ。


もしこれを企てたのが魔物だとしたら、そいつはかなり知能のある危険なやつだろう。


「あっちに扉あるよ、静」


露が指さした右奥。半開きになっている扉があった。


(行ってみよう)


露が歩き出す。俺は彼女に体を渡していて良かったと改めて思う。露は気配の消し方が上手い。歩く時も足音が殆ど出ないし、敵がいたとしても見つかりにくい。


更には鼻も勘もきくし、おれが探索するより遥かに安全だ。


半開きの扉の隙間からするりと中へ。すると左右に一つずつ部屋があり、突き当りには階段が見えた。その手前には左右に行けると思われる道も見える。


「どうしよっか」


(とりあえず左右の部屋を調べよう。最優先は武器、次に食糧......あと蔵書があれば嬉しいな)


「おっけー。それじゃ右の部屋から調べよっか」


結果からいうと右は寝室、左の部屋は物置だった。左の物置にはざっとみたところ食糧や武器は置いておらず、会議に使うであろう人や地形の模型、双眼鏡や人の絵画等様々な物品が所狭しと山のように置かれていた。


(ホコリが被ってる......だいぶ時間経ってるな。いつから放置されてるんだここ)


「へくしゅ!うう〜くしゃみが止まらないよぅ」


(交代するか?)


「大丈夫......あ、ここ何かあるかも?へくしょい!」


右手にあった戸棚の引き出しをあけてみる。もしかしたら小型の短剣でも入ってるかも。しかしその希望は儚くも散る。そこに入っていたのは大量の羊皮紙だった。


「なんかいっぱい入ってた。って、ん?この紙って普通の紙じゃなくない?」


(多分それは羊皮紙ってやつだな)


「え、まじで!ファンタジーだねえ〜」


なにが?と思ったがそんなツッコミよりも書かれている文字が読めない事に俺は絶望していた。見たことも無い言語。貴重な情報源であることには違いないのだが、読めなければ意味がない。


誰かに聞こうにもおそらく城の中に人は居ないだろうし。どうすればいいんだ。


(とりあえず武器もなさそうだし、別のとこ探そう)


(まって静、何か来た)


(え!?)


(階段の下、何かが登ってきてる気配がする。あと音も微かに聞こえる)


すげえ。俺には全くわからんかった。露が素早く寝室へと移動する。そして、ベッドの下へ滑り込んだ。その十数秒後、部屋の前を誰かが歩く音がした。そしてその足音の多さで複数人いることがわかった。


耳を澄ます。すると微かに会話しているような声が聞こえた。しかしいずれも言葉とは言えない、どこか獣の鳴き声のような......そんな事を考えていると、扉がガチャリとあいた。その瞬間、強烈な獣臭が俺の鼻腔を刺激した。




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