天候は日照り、山は大火事、絶好の不死鳥狩り日和です!

雪車町地蔵

冒険者が狩ってみたいモンスター、堂々の第2位!

 近づくだけで髪はチリチリ、息するだけで肺が焼ける。

 そんな地獄が、一帯に広がっています。

 大規模森林火災。

 ここ、ストーリア地方では、十数年に一度起きる自然現象です。


 自然現象とはいえ、その火勢は凄まじく、森からはモンスターたちが次々に逃げ出してきてスタンピードの様相。

 騎士団は総出でこの駆除へ挑んでいますが、私たち冒険者の狙いは違います。


 そう、不死鳥狩りフェニックス・ハントです!


 老いたフェニックスは自らを炎の中に投げ入れ、身体を焼き尽くすことで灰となり、その灰から甦るとされています。

 これだけ生命力が強いフェニックスは、羽毛の一枚、血液の一滴、肉から骨に至るまで、全てが不老長寿の元として大変な価値があり、高値で取り引きされるのです。

 見た目も大変美しいらしく、一目見たいと願う人々もかなりの数にのぼるとか。

 実を言えば、私もその口です。


 実際、ストーリアではフェニックスの飛来を観光の目玉としており、町ではお祭りが開かれ、大量の土産品や魔導具、出店などが並んでいます。

 最前線で戦っている騎士団さんには悪いですが、結構盛り上がっており、私も色々物色させていただきました。


 おっと、話が脱線しましたね。

 冒険者は大抵、フェニックスの素材が欲しいです。

 なにせ『全ギルド関係者に聞いた狩猟してみたいモンスター』堂々の第二位ですからね。

 ちなみに第一位はドラゴンです、誉れですね。


 しかし、フェニックス狩りは大変難しいとされています。

 なぜならこの鳥には厄介な特性があり、常に空を飛び続けているからです。

 生きている間は決して地に足を着けない、そういう生態を持っています。

 

 つまり、手が届くところへ降りてくるのは山火事や噴火の時だけ。

 そしてどちらも、なかなか起きるものではありません。


 比較的森林火災が起きやすいこの地に永住してチャンスを待つもの。

 各地を渡り歩きながらフェニックスを追いかけるもの。

 そして――私のようにたまたま居合わせた者などが、ようやく不死鳥狩りの栄誉を得る訳なのですが……ええ、案の定森に近づけませんね。


 当然です、モンスターですら耐えられない熱量。

 いくら冒険者が頑丈でも、ちょっと無理な話かと。


 中にはゴリゴリに防御術式と氷雪系魔術で武装を固めて突っ込んでいく同業者もいますが、燃費が最悪なのですぐに逃げ帰ってきます。

 ものを冷やすというのは、いつだって燃費が悪いものなのです。


 では、指をくわえて見ているしかないのか?

 いいえ、違います。

 要は、灰となって復活したフェニックスが飛び立つ瞬間を狙えばいいのです。


 というわけで、大枚を叩き飛翔術式が封入された魔導具を出店で購入。

 私は上空でフェニックスを待ち続けたのですが――


 結局、不死鳥が現れることはありませんでした。


 モンスターが討伐されても。

 山火事が消えたあとも。

 ずっとです。


 よくよく考えれば、別に致命傷を負ったわけでも、寿命を迎えたわけでもないフェニックスが、必ずやってきてくれるという確証なんてないのですよね。

 ちょっとお祭りの雰囲気に飲み込まれて盛り上がってしまった自分が情けないです。


 全てが終わったあと。

 ストーリア地方の名産品だという鳥の山火事焼きをかじりながら、私はちょっと半泣きで呻くのでした。

 ああ、結局――


 不死鳥、会えずじまいだったなぁと。

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