第4話 リズディアの退位式


 リズディアの退位式は爵位の有る貴族の代表者と皇族の見守る中行われた。

 式典用の部屋は白を基調に豪華に装飾され、扉を開くと赤い絨毯が部屋の中央を入り口から反対側まで敷かれており、左右には貴族と皇族がリズディアを迎えていた。

 一歩一歩歩いても誰も拍手はせず、一人で歩くリズディアを見守るだけで、皇族の中には悲しむ者もいた。

 リズディアが歩む赤い絨毯の先には、第21代皇帝であり父であるツ・リンクン・エイクオンが高段の椅子に座って待っており、高段の前までリズディアは進んだ。

 リズディアは、スカートの両脇を摘み軽い会釈をすると真剣な面持ちで父である皇帝を見た。

「皇帝陛下。この度は私の我儘によってご迷惑をお掛けした事心よりお詫び申し上げます」

 リズディアは粛々と口上を申し上げた。


 リズディアには、各国から皇太子との縁談が多く入っていた。

 本来なら、国同士の繋がりを持つ為に嫁がせる事が筋だろうが、エイクオンとしてもリズディアの才能と学校での成績を考えたら、その才能を他国に渡してしまうのは勿体無いと思っていた事もあり、リズディアの思い通りにしてしまった。

 そして、リズディアの気持ちを知り、親友の息子であるイルルミューランに嫁がせる事を決定した。

 皇帝エイクオンの親友であるイスカミューレンは、家業の商会を帝国一の商会にしており、次期皇帝の指名をしたリズディアの兄であるクンエイが考えた兎機関とうきかんの連絡役として思惑があった事から、イスカミューレン商会の後継者の嫁になるのは都合が良かった。

 帝国内の有力貴族の反発、特に皇位継承する家が増える事は、今後の勢力争いの火種になりかねない事もあり、リズディアには完全に皇位から離れてもらう事で納得させ、裏の顔である兎機関とうきかんの連絡役としてのイスカミューレン商会が皇族と離れる事はエイクオン達からしたら都合が良かった。

 国内外の情報収集の為の裏の顔と、経済的な繁栄のためにリズディアの叡智を使う表の顔。

 リズディアがイスカミューレン商会において才能を発揮すれば光輝く事になるので、影の顔が薄れる事になると皇室は考えた。

 リズディアを皇族としての足枷を外し自由に才能を発揮させていると思わせる事により、国内貴族と各国の目を向けさせる事で兎機関とうきかんの存在を隠そうというものだ。

 詳しい話は皇帝エイクオンとクンエイとイスカミューレンの3人で行われている。


 リズディアの口上を聞いたエイクオンは寂しそうな表情をしたままリズディアを見ていた。

 すると、リズディアは、自身の頭に乗ったティアラを外すと、控えていたエイクオンの侍女がテイアラを置く為のトレーを持ってきた。

 そのトレーは、ティアラの2倍の大きさがあり、赤い綿入りの布で覆われており傷付かないようになっており、その上にリズディアは外したティアラを置いた。

 そのティアラの乗ったトレーを頭上に掲げエイクオンの前に行くと確認してもらう為に侍女は跪いた。

 エイクオンはティアラを確認すると頷いたので、侍女はそのトレーを持ったまま下がって自身の控える場所に戻った。

「今まで、皇女としての役目、ご苦労だった。今後は、スツ家の一員として帝国を盛り立ててくれ」

「ありがたき幸せ」

 一言答えると、深々と礼をした。

「今後は、皇帝陛下の為に身を挺して帝国の発展に努めます」

 そこまで言うと、また、礼をすると、後退り列の最後まで来ると貴族の末席に並んだ。

 そこには、夫となるイルルミューランが居り隣に立った。

「リズディアは、皇位を辞した。皇族から離れ、スツ家の一員となる。今後は、イスカミューレン商会にて帝国を盛り上げる事となる。以後、リズディアの子々孫々が皇族に戻る事は無い」

 エイクオンが宣言する。

 その言葉に異論を唱える者は居らず黙って聞きいり、全員が右手を胸に当てて軽く顎を引き、理解したと言うように態度で示した。


 この退位式は、リズディアを爵位の無い貴族であるイルルミューランの嫁として出す為の条件となっていた。

 三大公家と、それに次ぐ公爵家においては皇位継承権を持つ家が増える事は自身の家の娘を嫁がせたり、クンエイ以降の皇帝の子達と縁談を結ぶ為に障害となる可能性もある。

 現皇帝のエイクオンは、20人の子をもうけたが、次期皇帝以降のクンエイから先が、このように多くの子を儲けるとは限らない。

 そんな中、一つでも公爵家の一員として名を連ねる事は、場合によっては婚姻を結べない可能性も出てくる。

 公爵家としては、自身の家を存続させるため可能な限り皇帝の血筋と近くしておき権力基盤を盤石にさせようとしていた。

 その為にも、才女と呼ばれ男として生まれたらクンエイが次期皇帝に指名される事も遅れただろうと言われたリズディアと婚姻が結べなかった三大公家と公爵家としては、後々の為にもリズディアの退位はありがたかった。


 イスカミューレンとしては、スツ家が皇位継承権を得たリズディアを迎えた事により三大公家と公爵家との権力争いに巻き込まれる事を嫌い、皇位継承権の返上とリズディアと息子のイルルミューランとの結婚もイスカミューレンの根回しによって実現されていた。

 エイクオンとしては、才能あるリズディアの皇族から外すというのは寂しいようだが、最初の娘でもあり可愛いさから近くに置いておきたかった事もあり、親友であるイスカミューレンの息子へのリズディアの思いも知った事、そして次期皇帝を指名したクンエイの考える国の繁栄の為にも、イルルミューランとの結婚は好ましいと判断していた。

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