勝負!

購買のスペシャルパン

 お昼のチャイムと同時に、私は教室を抜け出した!


「走るな!」


 と、先生に怒られる。


「はぁい!」


 ならば仕方ない、出来る限りの早足で。

 でも、勝利は確信していた。


 今日こそ、購買のスペシャルパンはいただいた!


 あいつは今日、午前最後は体育。

 片付けなんかもあるはず。

 更衣室は1階で、私の教室は3階だけれど、勝機はあった!

 こちらは小山の数学だ。

 小テストだったのだ。

 チャイムと同時に終了。

 問題さえ解ければ……。


 苦手な数学も、この小テストは救済だって言われていても、ここは譲れない。

 適当……、ではないけれど、時間だけを気にして一気に解けば……。


「明日香? あのさ、今日ね……」

「ごめん、急いでるから!」


 廊下で、よっちゃんを振り切った。


「葉山、ちょっと頼まれて……」


 頼まれてたまるか!


 担任にも気付かないふりを押し通す!


 階段を駆け下りる。


 間に合え!

 まだ列は少ない!


 最後の角を曲がった時、間違えようもないあいつが余裕の笑みで現れた。


 あとで聞いた。

 片付けは任せて、購買係をかって出たのだと。


 そんなことは知らなかったけれど、それでも……。

 行ける!

 勝つ!


 気付いたあいつが手を伸ばす。


 それより先に……。


 今日こそ、勝ち誇った顔でスペシャルをいただくのは私のほうだ!


「わずかだけれど……」


 判定は?


鼻差内はなさないで! 勝負、明日香ちゃんの勝ち!」


 おばちゃんは競馬好き。

 タッチの差ってことか。


「よっしゃぁっ!!」


 こぶしを握り締め、突き上げ、あいつにビシッと!


「いいけどさ」

「なによ、負け惜しみ? さあ、私の勝ちだから……」

「いや、おまえ、それ……」

「だから、おまえっていうな」

「いいから、手……」


 へ?


「あ!!」


 勝利の握りこぶしのなかで、つかみ取った栄光、特製クリームパンが……。


「うん。まあ、俺は甘いものは苦手だし。今回は引き分けってことで」


 あ、ああ……。


 おばちゃんの「もったいないからちゃんと食べなよ」の言葉が遠い。


 勝ったらあいつから……、って、約束も。

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