Ending それから

 今日は大輝さんと陽菜さんの娘、芽衣めいちゃん1歳のお誕生日会だった。俺と零で一緒に参加し、三人を祝福したその帰り道にスナックかのんに立ち寄った。


 カランカランと軽快にドアベルが鳴る


「いらっしゃ~い! あれ? 二人ともお洒落して……デートの帰り?」

「今日は芽衣ちゃんの誕生日会だったの」

「もう1歳になったんだ! 早いね〜!」


 あれから一年、かのんも変わらずチーママとして奮闘している。土曜日の夜もスナックは賑わっていた。


「このカウンター席にどうぞ!」


 俺達は案内された席に着くと温かいおしぼりを渡された。

 飲み物を頼み、かのんにも飲み物をすすめる。

 そして彼女はカウンターの奥で慣れた手つきでビールを注ぎ始めた。


「「「カンパ~イ」」」


「もうあれから一年経つんだね~。ちょうど夏の出来事だったもんね?」

「そうだね、二人には大変お世話になりました」

「ああ、中々スリリングな夏だったな」


 三人でビールを飲みながら時の流れを感じていた。


 あの日、零が俺と一緒にあの家に住むと言ってから俺達は同棲を続けている。


 俺は相変わらず仕事を続けながら副業でコツコツと心霊動画を上げている。最近収益化が通ったりなど嬉しい事があった。映像の他にはチャンネルオリジナルグッズの販売に挑戦している。もちろん本業も順調だ!


 零もイラストレーターを続けている。零が作画デザインを手掛けた配信者の生誕グッズのイラストを担当したり、ライトノベルのイラストを担当したりなど活躍している。もちろん俺のチャンネルのイラストも彼女に依頼して書いてもらっている。


 猫の霊達は相変わらず佐倉家で寛いでるが、時々外部から友達を連れて来るようになった。

 座敷わらしも相変わらず零に抱きつくのが好きだが、大輝さんの所の芽衣ちゃんが来ると兄貴になった面持ちであやしている。芽衣ちゃんもわらしが感じられるようでわらしを視てはニコニコと笑みを浮かべている。


「あ! そう言えば風の噂で1年前に辞めた青山さんが結婚するらしい。しかも○○商社のスパダリスーパーダーリンで海外に住むんだって。今でも連絡をやり取りをしている同期三ノ輪が教えてくれた」


「そのスパダリって……」


 零がジト目で尋ねてくる。

 会社名に聞き覚えがあったのだろう。当たりですよ? 零さん。


「ああ、彼女苗字が中谷に成るらしいよ」

「ええ! あの二人が? どこで接点が有ったの??」

「そりゃーもうストーキング中よ。二人ともお互い好みっぽいんだよねぇ」


 その言葉を聞いて俺と零は驚いてかのんを見る。俺より詳しそうだな? かのん。

 しかし、ストーキング中に浮気ってカオスだな……零も呆れた顔をしている。


「婚約破棄突きつけられた後、すぐ彼女とくっついたんじゃないかな?」


 かのんさん? 本当、何でそんな詳しいの?

 青山さんは試用期間終了とともに「一身上の都合で」会社を辞めていた。実際の所は「支えたい人が居るから転職するんです」と。


「まさか……かのん視えてたの?」


 零はジト目でかのんを逃すまいとしている。

『視えていた』何のことだ??

 確かに彼女はあたかも現場で見ていたかのように話す……

 俺もかのんを見ると彼女は目を泳がせて不審な動きをしている。困った俺は零に聞いてみた。


「零、どういう事?」


「かのんは別界隈で有名って言ったでしょ?」

「うん、確かに聞いたけど……面白くて人気が有るんじゃ?」

「霊感が有って霊視や占いも得意だから、それ目当てで来るお客さんもいるんだよ」


 占いぃ!?

 そう言われてかのんはおずおずとカードの様なものを取り出して見せた。これ……タロットカードって奴だよな??

 普段おちゃらけた彼女が占いをするイメージが湧いてこない……絶対笑いながら占いしていそう。


「ははは……占いは勉強中だしまだまだだから!お酒のつまみ程度に軽く聞いてもらってるだけなんだけどねえ~。アイツが零の浮気を主張しようとした時『子犬のように可愛い彼女』で黙ったでしょ? 青山ちゃんだっけ? 彼女の事をそう呼んでたからね。あの時は二人とも悲劇のヒーロー・ヒロインだからお互いに傷を舐め合ってたんだと思うよ」


 零もそれを聞いて渋い顔をして呆れている。

 怖えぇ! あの二人が結託けったくしなくて良かった!


「やっぱりサイテー」

「切り替え早っ……大丈夫なのかな? あの二人」


 二人とも愛超重めの束縛系だ。


「まぁ、雨降って地固まってThe☆ENDよ。相性も束縛するもの同士で丁度いいと思うよ。零達とも縁が綺麗に切れて向こうさんは未練も何もなくラブラブだから、二人は何も心配しなくていいよ。よかったね中谷の生霊も消えて」


 ひえっ……そういえば忘れていたけど、零に憑りついていた厄介なものって、中谷の生霊だったんだ。だが……


「いろいろ散々な目にあわされたけど……今後何もないと分かれば安心できるな」


 何はともあれ、丸く収まって良かった。俺は安心してビールを飲むが、零はまだかのんに聞きたいことが有ったようで次の質問に入った。


「じゃあ、私達をくっつけようとしたのは?」


「……ええっ? 何の事??」


 かのんは嘘が吐けないようだ。明らかに動揺する。


「私と颯太で初めて出かけた時、露骨にくっ付けようとしてたじゃん。分かるよ?」


 確かに、ただ歩けばいいだけなのに俺と零を物理的にくっ付けてきた。あの日のお陰て零は俺の事を名前で呼んでくれるようになるなど、心の距離も縮まったが……確かに何故?


 かのんは俺達の背後をちらりと見た後ため息を吐いて諦めたように自白をした。


「だってさぁ~二人で初めてここに来た時……お互いの守護霊が『この人!この人!』ってアピしまくってるんだもん。二人の雰囲気もよさげだったから、そりゃ応援しますわなぁ」


 俺はそれを聞いて自身の背後や零の背後をみて驚く。

 えっ? 皆様方のご推薦??

 かのんの回答を聞いて零は堪えきれず笑い出した。


「じゃあ、わたし達みんなの思惑通りになっちゃったのか……」


「そうだね、来週でしょ?楽しみにしてるからね」



 ◇ ◇ ◇


 一年前


  零が中谷のマンションから奪還され、大輝さんとかのんが帰宅した後……

 二人きりになり、俺は彼女に告げた。


「零、ボディーガードの契約は終わったけど、これからも一緒に居てくれないか?」

「うん、だからこれからも一緒に暮らそうって……」


「いや、もっと先の話しだ」

「えっ……先?」


 俺は零を真っ直ぐに見つめ、俺の思いを彼女に紡いだ。


「零、好きだ。これからもずっと一緒に居たい。結婚を前提に付き合って欲しい」


 彼女は突然の事に戸惑ってる。嬉しい顔をしたが……すぐに表情を陰らせた。つい数時間前に婚約破棄をする修羅場を体験したばかりだ。


「あんな事があった直後に言うべきじゃないのは分かってる。でも、また零が消えて云えなくなったらもっと嫌だ。零には驚かされることも多かったけど、楽しくて……幸せで……年を取って爺さん婆さんになっても、その先俺が幽霊になっちまっても一緒に居たいんだ」


 その言葉を聞いて零はふんわりと笑った。


「そこまで長く一緒に居てくれるの? 嬉しい。颯太と過ごして知っていく度にボディーガードの契約もっと伸びれがいいのにと思ってた……それに、もっともっと颯太の事を知って二人で楽しく生きていきたい。……喜んで! こんな私ですがよろしくお願いします」


 零は微笑みながら涙をこぼし、俺に飛び込んで来た。俺も彼女をしっかりと受け止め抱きしめる。


「泣かせるなって言われたばかりなのに泣かせちゃったな……」

「そうだよ。『颯太が泣かせたー』ってしっかり報告しなきゃ」

「じゃあ、大輝さん達が落ち着いたら報告に行かないとな。その後『妹さんと結婚させてください』って」


 それから俺達は準備を進めとうとう……


 ◇ ◇ ◇


「そう、式の準備も終わったし後は当日を待つのみになったな?」

「うん!楽しみだね」


 零は幸せそうに俺を見て優しく微笑みかけた。


 彼女の左薬指には指輪が輝いている。家族と友人を招いて小さな式を挙げることになった。もちろん、この先も零と一緒に末永く幸せに暮らしていく。どんな苦難も彼女となら越えて行ける。


 これが、偶然住むことになった幽霊屋敷で幽霊ではなく未来の伴侶と出会ってしまった俺達の話であった。記録としてここに残させてもらう。


 最後まで聞いてくれてありがとう。では、また!会う事が有ったら……!

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幽霊はストリーマーに恋をする 雪村灯里 @t_yukimura

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