Chapter27 帰宅

「みんな……ありがとうございました」


 四人で佐倉邸の居間に戻って一息ついた所で零がそう切り出し、頭を下げた。

 大輝先輩は大きなため息を吐いた後、零に文句を言う。


「まったく……色々とショックだったぞ? 俺より月島が信頼されてるって。初めから俺にも相談くれればっよかったのに!」


「黙っててごめんなさい……。3ヶ月逃げ切れば向こうは諦めると思ったの。それに、中谷さんと言い争った日の音声持ってたから。顔合わせの日に、皆に聞いてもらうつもりだった」


 零も切り札を持っていたのか、だから大人しくついて行ったんだな。


「月島から全部聞いた。中谷があんな奴とは知らなかった……気づけなくて悪かった。それと、陽菜がこの家で幽霊だと思っていたのは全部お前だったって?」


 零は驚いて俺を見つめたので俺は『全て話した』という意味を込めて頷いて見せた。


「うん、陽菜ねえに怖い思いさせてごめん……大切な時なのに」


 零はしゅんとして目を伏せる。


「陽菜にも話したら、お前の事を心配していたぞ? 幸い心身ともに安定しているから幽霊騒ぎの件は掃除機でチャラにしてくれるってさ」


 それを聞いた零は安堵のため息を吐いた。先輩は改まって俺とかのんに向き直り頭を下げた。


「月島とかのんちゃん、今回は俺の妹と後輩が迷惑をかけて申し訳ない。そして零を守ってくれてありがとう」


 先輩に合わせて零も一緒に頭を下げた。二人の姿を見て俺とかのんは慌てる。


「先輩! そんなやめてください!!」

「そうですよ! 頭上げてください」


 先輩は俺達の言葉でやっと頭を上げてくれた。そして真っ直ぐに俺を見て俺告げる。


「月島の賃貸契約はこのまま継続してもらって構わないし、心霊動画の活動も続けてもらって構わない」


「え!? いいんですか? でも先輩たち出産後、ここに戻られるんですよね?」


 出産予定日は来月上旬のはずだ。彼らがここに戻るならば、俺は今のうちから家を探さなければならない。


「子供が小さいうちはあのマンションで暮らす事にした。陽菜の実家と保育園が近いんだ。ここには子供が小学校に入る頃に戻るかな。その時は建て替えかリフォームか……頭が痛いな」


 この家にあと数年居られる……

 俺は思わず零を見た。彼女もそれに驚いている。 

 すると、かのんが零に問いかけた。


「零は今後どうするの?」

「そうだよな、ここは月島に貸しているし……暫く俺達と一緒に暮らすか?」


 あんなことが有った後だ。この家を出て行ってしまうのかな?……大輝先輩と一緒に暮らすのか……?


 俺は零との暮らした日々を思い出していた。いろいろあったが彼女との生活は楽しかった。願いが叶うなら零と暮らしたいな……


 零は膝の上でハンカチを握りしめていた。意を決したように言葉を紡ぐ。


「私……ここで暮らしたい。お兄ちゃん、私にもこの家貸してください」


「「!!」」


「えっ……!?月島と同棲ってことか?お前達付き合ってたのか??」


「「まだ、付き合ってはいないげど……」」


 思わずシンクロして、俺と零は目が合う。

 それを見たかのんが小さく笑いながら「それはこらからだもんね?」と助け舟を出してくれた。

 零はぐっと大輝さんの目を見つめ懇願した。


「また月島さんとこの家に一緒に居たい。お兄ちゃん、月島さん、お願いいします!どうか私をここに住まわせてください!」


「大輝さん!俺からもお願いいたします。零さんと一緒に居させてください!!これからも彼女のこと守ります!!」


 俺達を交互に見た大輝さんは根負けして大きなため息をついた。


「はぁ~……零は言ったら聞かないし……分かったよ、俺達が戻ってくるまではこの家を頼んだ。月島、零を泣かせたら許さないからな? 零も今後は隠し事なしだぞ。2人共いいな?」


「「はい!ありがとうございます!!」」


「颯太!これからも宜しくね!」

「ああ、こちらこそ!」


 こうして、また俺達の同居生活は続くこととなったのだ。

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