KAC20245 女の友情と事情

久遠 れんり

売りやがった

「ねえ。好きな男の子って誰」

 昼休み、優子が脈絡もなく聞いてきた。


「何、突然?」

 そう聞くと、てれっとして。


「最近さあ、結城君とか気になるし、祐司君も気になるのよね」

 私は、その言葉にドキッとする。

 祐司君は、密かに思っている相手。


 ――どうして、彼を名前呼びするの?


 穏やかで優しく、誰にも等しく接してくれる。

 でも、私には、それ以上を感じる。

 それは、私の自惚れとか、勘違いかもしれない。


 でも…… それでも、彼が気になっている。


「彼って優しいし、あの雰囲気が良いのよね。さらっとかわいいねとか、褒めてくれるし。キュンて来るわ。むろん結城君もかっこいいし。彼はモテるから敵は多そうだけど」


 かわいい? 褒めて貰った?

 胸がズキッとする。

 優子に焼き餅。

 私、かわいいなんて、言って貰ったことはない。


「かわいいって、どうして」

 そう聞くと、にやっと笑う。


「気になる? もしかして蒼依あおいも興味があるのかな?」

「えっ。いや別に。ただ、そんなことを言われるって、何があったのかなって……」

 彼女の、ニヤニヤが、気になる。


「ああ、これを見せつけて、似合うか聞いたのよ」

 聞いた? 優子と祐司君。そんなことを聞くほど、仲が良いの?

 そう言って、サクラの花びらが二つ付いた髪留めを見せてくる。

 

「そうなんだ……」

 そう言ったとき、私の心が表情に出たのか、聞かれてしまう。


「――ねえ。祐司君のことが好きなら、そう言って。私は手を引くわよ」

 にまにまと、いやらしい笑顔を浮かべて、彼女が聞いてくる。


「好き」

 言ってしまった。

「あっ、誰にも

 それを聞いて、やはり満面の笑み。

「やっぱり」

 なぜか勝ち誇った顔。私は、急に恥ずかしくなり顔が熱くなる。


 そこまでは良い。

 だけど、彼女は踊りながら、祐司君の元へ。

 耳打ちして、何かをしゃべる。

 彼が、こちらを見る。


 まさか。


 すると、彼から、優子へ千円札が一枚。


 売りやがった。

 私は呆然とするが、彼は立ち上がり、こちらへやってくる。

 見てわかるほど赤い顔。


 多分私も同じ。


 でも。


 勝手に告白を仲介され、しかも売られた。



「あの、ありがとう。君の気持ちが知りたくて、優子に頼んだんだ」

 その言葉は嬉しい。とても。

 

 でも、今私は、とても素直にはなれない。

「嫌い」

 そう言ってしまう。当然彼は驚く。

 でも許せなかった。なんだかもてあそばれた気がして。

「えっ?」


 驚いている彼を放置し、教室を離れてしまった。



 そして、その晩泣き濡らす。

 嬉しくて悔しくて、意地を張った自分が悲しくて。


 翌朝、朝の教室で、いちゃつく二人を目撃する。

 目が覚めて、かなり早く来てしまった。


「彼女、俺のことを、嫌いって言ったぞ」

「変ねえ、意地張っているだけでしょ」

「そうかなあ」

「幼馴染みの私が保証する。両思いだから」

 幼馴染み? 二人が?


 他の人はまだ来ていない。

 私は教室へ入る。

「あっ、おはよう」

 彼が挨拶をしてくれる。


 だけど、昨夜後悔をしたのに、素直になれない。

「あちゃー本当だ。ごめんてば蒼依」

「裏切り者」

 私は、彼女に言い放つ。


「お怒りだあ。でも、すねると大事な物をなくすよ」

 うん? 彼女はなんと言った?


「へっ」

 優子は彼に抱きつく。

「蒼依ってば、心が狭まい子だったみたい。ごめんね。仕方ない。やっぱり運命なのよ。私と付き合いましょ」

「そうか。仕方がない。約束だったしな」


「えっ、どういうこと?」

「私、この前好きって言ったのよ。祐司に…… 幼馴染みから彼氏へのジョブチェンジ。だけど蒼依のことが好きって言うから、千円で仲介したの。諦めていたけど、断ってくれて嬉しいわ。蒼依」

「えっ。ちょっと待って」


「嬉しいわ。祐司。もう私を

「ちょっとまってぇ……」




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二種類の『はなさないで』です、多少強引な流れになってしまいました。

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