ヨモマラソンの賞品設定がおかしい(KAC20244)
つとむュー
ヨモマラソンの賞品設定がおかしい
「もう、まったく、なんなのよ!」
文芸部部長、
「どうしたんですか? 部長」
「私がネット小説を読むのが好きなの、知ってるよね」
「ええ、知ってますとも」
夜萌香部長は、ネット小説を読むのが大好きだ。
特に「フミヨモ」というサイトがお気に入り。
「今ね、大好きなフミヨモでヨモマラソンという作品を読むキャンペーンをやってるんだけど、その賞品設定に納得がいかないのっ!」
あんなに大好きなフミヨモなのに、ここまで怒るとは珍しい。
まあ、まずは彼女の怒りを鎮めるのが先だろう。
僕はいつものように、優しく部長に語り始めた。
「校内一の才女で、しかも学区一の美人である夜萌香部長がここまでお怒りになるとは、よほどのことがあったのですね」
すると頬をわずかに紅潮させながら、彼女は声のトーンを落とす。
「え、まあ、それほどのことでもないんだけどね……」
「僕がお話をお聞きいたしましょう」
僕はゆっくりと椅子に腰を下ろす。
すると夜萌香部長も、テーブルを挟んで僕と向かい合うように席に着いたんだ。
◇
「さっき言ってたヨモマラソンだけど、どんな賞品が貰えるか知ってる?」
「いえ。そもそも、ヨモマラソンを知りませんが」
「ヨモマラソンというのはね、今月限定のキャンペーンで、作品を読めば読むほど抽選で賞品がもらえるの。その詳細はね……」
部長が言うには、ざっとこんな感じらしい。
10話読むと、抽選で1000名にドーナツチケット(170円分)
100話読むと、抽選で150名にイタリアンレストランお食事券(2000円分)
300話読むと、抽選で30名に高級マグロカタログギフト(6000円分)
800話読むと、抽選で5名に温泉旅館宿泊券(3万円分)
「これ設定した人、絶対昭和生まれだよ。飲み会開いたら踊り子呼んじゃうタイプ。私は高級マグロなんていらないの、ましてや温泉宿泊券なんて」
ふむふむ、この賞品自体に問題があるというわけか。
確かに、これは昭和の匂いがぷんぷん漂う賞品設定かもしれん、って昭和のことはドラマでしか知らんけど。
「部長はこれらの賞品が気に入らないんですね」
「違うの。最初に言ったよね、賞品設定に納得いかないって」
ええっ、他に気に入らないところがあるってこと?
「この賞品設定にはね、もっと根本的な欠陥があるの」
それってなんだろう?
ごく一般的な賞品設定のような気もするが。
「だってね、読めば読むほど当選する確率が下がるのっておかしくない? 私はたくさんの作品を読みたいの。でも、たくさん読むと当選確率が下がっちゃうのはもっと嫌なの」
さすが、夜萌香部長らしいジレンマだ。
その後の話をまとめると、部長が理想とする賞品設定はこんな感じらしい。
10話読むと、抽選で10名にイタリアンレストランお食事券(600円分)
100話読むと、抽選で100名にイタリアンレストランお食事券(600円分)
300話読むと、抽選で300名にイタリアンレストランお食事券(600円分)
800話読むと、抽選で800名にイタリアンレストランお食事券(600円分)
「確かにこれなら、たくさん読もうという気になりますし、賞品総額もあまり変わりませんね」
「でしょ? それに、あのイタリアンレストランは格安がウリなんだから、一人で行った時に2000円も使わないわよ」
「僕も、だいたい500円くらいで済ませまてます」
「そもそも小説って、非日常を体験できるツールじゃない。そして「抽選が当たる」というのも非日常的な体験なのよ。夢を与えるネット小説サイトなら、非日常的な体験の提供を貫くのが使命だと思うの」
「確かに」
「それにね、一ヶ月で800話も読む人なんて800人もいないの。それってどういうことだかわかる?」
抽選800名で、母数が800人に満たないとしたら……。
「100パー当たる」
「その通り! めちゃくちゃやる気が出るじゃない! もう読みまくるしかないよ」
さすがは校内一の才女。
きっと、努力したら成績が上がるという100パーセントの確信が、今の彼女を築き上げたのだろう。
「要は、あのイタリアンレストランに行きたいってことですね?」
「えへへ、バレた?」
この照れ笑いが僕の心を鷲掴みにする確率も、今のところ100パーセントなんだ。
ヨモマラソンの賞品設定がおかしい(KAC20244) つとむュー @tsutomyu
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