或いは心臓に至る
秋待諷月
或いは心臓に至る
ティアテープ、という名称を知っているだろうか。
キャラメル菓子などによく見られる、フィルム包装を剥がすために引っ張るテープのことで、堅苦しくは「包装材料開封テープ」などと呼ばれるもの。
私はこのテープを剥くのが好きだ。
数ミリだけ飛び出したテープの端を摘まみ、ピーッ、と勢いよく引っ張ってフィルムを破る、あの感覚が堪らない。途中で千切れることなく、最後まで綺麗に剥がし終えたときには、得も言われぬ快感が味わえる。
日本は過剰包装のお国柄だ。食品・薬品・化粧品、CDにDVD。ありとあらゆる商品がティアテープ付フィルムに覆われている。故に、私は日々、嬉々としてテープを剥いて剥いて剥きまくる。
そんな私の指先に、突如、奇妙なささくれができた。
左手の親指頭、外側の爪の際。剥けた皮が、先端まで真っ赤に染まっている。指から少し浮き上がったその様は、まさにティアテープを彷彿とさせた。
赤い色は、一本の線を引いて皮膚の内側へ続いている。
薄皮一枚を透かした下、爪際を通って指の付け根、手掌を経由し手首、前腕から肘窩、上腕を通過して腋窩へ――そこで、赤い線は皮膚の下の奥深くへと潜りこみ、見えなくなっている。
左腕を一直線に走る赤。明らかに血管ではない。痣でもなければ入れ墨でもない。
何かおかしな病気だろうかと、不安に苛まれながら赤いささくれを観察しているうちに、私は段々、とある衝動に駆られ始めた。
――剥きたい。
ティアテープさながら、先端を摘まんで一息に引いてしまいたい。
私は右手で左の親指を弄り回す。
ささくれを安易に剥いてはいけない。そんなことは常識だ。それ以上に、これに手を出してはならないと、私の本能が訴えている。
だが剥きたい。剥きたくて仕方がない。
駄目だ耐えろ、剥いてはならない。
剥きたい、剥くな、剥きたい剥きたい、剥くな剥きたい剥きたい剥きたい剥きたい剥きたい剥きたい剥きたい剥きたい剥きたい剥きたい剥
ケ
タ
Fin.
或いは心臓に至る 秋待諷月 @akimachi_f
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