おまけ レッドの恋
ラフワムート族の集落の中は、外部と同様に内部も貝殻で出来ている。
通路の先で、見慣れた黒いススワタリのような奴とピンク色のミミックみたいな奴が、物陰に隠れて何かを盗み見ている。
『エールとトリア、そこでなにやってるの?』
振り向いた二人(この見てくれの奴を人で数えるのも慣れたな)はいつも通り言葉を発することなく、なんとなく雰囲気だけで「しーっ」と伝えてくる。
身を屈めて、俺も二人が覗いていた先を見やる。
珊瑚色したというか珊瑚で作られたバルコニーの柵に、真っ赤なキツネの姿をしたレッドと、目が存在しないというセブン・ハンズの共通項を持つ金色の鳥が隣り合っていた。金色の鳥は新たに仲間に加わったセイントであった。
二人は仲睦まじそうに肩寄せ合っている。
『なに、あいつらデキてんの?』
毅然と立つセイントに対して、レッドの方がしなだれかかっており、ゆるやかに尻尾が右へ左へ揺れている。
レッドの方がセイントに「ほ」の字って感じだな。この乙女め。
普段は気が強く暴力的な女の子が、慕う相手の前ではしおらしいだなんて、とても良いではないか。
しかし、勝手にレッドを女だと思っているが、実際のところは知らん。最早、こいつらに性別の概念があるかどうかも分からん。あとでノイルに聞いてみるか。
セイントはどうして、手にした者が強者に立ち向かうとき、その者の戦闘能力を向上させ、ダメージ数を増加させ、逆に手にした者が弱者を攻撃する時はダメージ数を減弱させるという能力を持つのか。そして、なぜ人間側に付いていたのか。
その理由は先日、ノイルから聞いた。
かつて、魔族との圧倒的力の差を覚えた人間たちは、無謀な特攻や人体実験を繰り返すようになったという。人間たちの暴走に心を痛めたセイントは自らが歴代勇者の主要武器となり、人々に無茶な行動に歯止めをかけようとしたとのことだ。
実際、勇者と最強の矛という存在を得て、人々の自暴自棄のような行動は鳴りを潜めたそうだ。
だが、こうして俺が魔王として舞い戻り、勇者を倒した今、セイントは別の方法で魔族と人類の間で和平を結ぶ必要ができたとのこと。
え? 俺のせい?
とりあえず、こちらとしては強いのが仲間になって嬉しいが、今後の計画についてはまだ聞かされていない。きっとノイルを中心に、あれこれ魔族たちが考えてくれているのだろう。
『お前ら、出歯亀バレたらレッドにキレられるぞ』
エールとトリアはなんか、よく分からん動きをしてこちらになにか伝えようとしてくれている。
いや、ノイルじゃないと分かんねえなこれ。
『ほどほどにしておけよ』
退散すると、なんだか二人からビビり野郎って言われてるような気がしてくるが、知るか。レッドに噛まれると痛いんだよ――って膝⁉
エールとトリアが両膝にタックルしてきて、俺はその場に崩れ落ちる。そして二人はそのまま逃げていった。
『……あいつら』
立ち上がろうとしたら悪寒が走った。
振り向くと、そこには平生よりも赤々としたレッドがいた。
『いや、俺じゃなくてエールとトリアが――ぎゃあああああああああああああああああ‼』
ほらね。やっぱりこうなるじゃん。
しばらくして、分身したレッドがエールとトリアを捕まえて来た。むしゃむしゃ食われてる。よし、いいぞ。死なばもろともよ。
あ、セイント様、僕だけ助けてもらっていいですか?
童貞大魔王、異世界で本物の魔王となり人間を卒業す――。 成雲蒼人 @acloth
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