誰かとなら、できるかも

湖ノ上茶屋(コノウエサヤ)

私はひとりじゃ、挑戦も継続もできない


 お花屋さんで働くようになってから、水に触れる機会が増えたからか、手が荒れるようになった。

 普段は洗い物が面倒だからとか色々理由をつけて、自炊をしないで、お弁当を買って食べたりしてる。

 働き始めてから、そんな面倒くさがりな性格が、ささくれのない美しい手を作り出していたことに気づいた。

 ハンドクリームやらなんやら、水仕事をしながらも美しい手を保つためにできることはたくさんあると思う。

 でも、面倒くさい。

 自炊もお皿洗いも面倒だと思った人間に、ハンドクリームを塗り込む習慣をつけられるはずなんてない。


 荒れは酷くなる一方だ。

 そんな手を見た同僚は、「いくら花が綺麗でも、それを手渡す手が痛々しかったら嫌じゃない?」って言った。

 後ろを通って取りに行けばいいものを、わざわざ私の前に腕を伸ばして、しっとりとした手を見せつけるようにティッシュを一枚つまみとりながら。

「そんなこと言うなら、おすすめのハンドクリームとか教えてよ」

 どうせ、買っても三日坊主で終わりそうだけど。

「皮膚科行け、皮膚科」

 皮膚科は嫌いだ。超待たされるけど、効果はほとんどない。効果が出たことは、人生で一度たりともない。

 言われた通りに塗ったり飲んだりしないからだっていう指摘は、聞きたくない。

「まぁ、そうだなぁ。じゃあさ、今度一緒に出かけない?」

「は?」

「ハンドクリーム探し、手伝ってあげるからさ。だから、わたしが行きたいところ、付き合ってよ」


 数日後、私はしっとりとした手にガサガサの手を掴まれながら、何がどうしてこうなったのやら、動物園に連れてこられた。

 パンダが「笹くれ〜」としている様を見、自分のささくれに目を落とす。

 ササクレ仲間だねぇ、なんて心の中で思って、疲れた自分に呆れて笑った。

 なんの効果があるのかわからない、パンダのパッケージのハンドクリームをお土産屋さんで見つけて、「お揃い」って笑いながら買う。

 それを、カバンに突っ込んで歩いて、それを同僚がつけるたび、真似して私もつけた。

 パンダのハンドクリームが空っぽになる頃、ガサガサだった手は、しっとりと艶やかになっていた。

 もう、パンダとは仲間じゃなくなったんだなぁ、なんて、寂しく思う。

 そして、面倒だと思うことも、誰かと一緒ならできちゃうんだなぁ、なんてことを、今更知る。


 誰かとなら、料理もできちゃったりするんだろうか。

「ねぇ、料理得意?」

「んー? 人並みに」

 今度は私が誘う番。

「ねぇ、今度一緒に、料理しない?」

「へ?」

「いや、その……。材料費とか出すからさ。料理教えてもらえたら、嬉しいなって」



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誰かとなら、できるかも 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

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