二次創作で見る例のアレ
櫻葉月咲
さよなら、俺。こんにちは、中の人
「ん……」
なぜか瞼の裏が眩しく、俺はゆっくりと目を開ける。
「ここ、は……」
見慣れない天井は汚れひとつ無い白いクロスが張られており、周囲を見回すと白いタイルで覆われている。
まさか、と思って床を見るとこれまた白。
白いフローリングってあんまり見た事ないな。
けど白って200色あんねん。知ってるんや、こういうの。あんまりわからんけど。
そう俺がぼんやり考えていると、どこからか機械音が聞こえた。
『やあ、お目覚めのようだね』
「うお!?」
天井からモニターが現れて勝手に付くと、どこかの民族のような仮面を付けた人間……? が映った。
背景は黒く、仮面だけがぼんやりと映る程度だ。
一種のホラー映像か?
それにしては声が高いなと思いつつ、俺が目を見開いている間にそいつはペラペラと喋る。
『おめでとう、君は選ばれし者だ。今から君にある事に挑戦してもらう。──何を言ってるのか分からないって顔だね? 見た通り、ここは〇〇しないと出られない部屋、もとい箱だ。ソレを知ってると想像しやすいかな』
はい……?
え、まさか俺、知らない間に例の部屋にご招待されちゃったってコト……!?
俺はその手の話が大変好物だ。
二次創作は勿論、一次創作でも見る『ご都合』の部屋であんなことやこんなこと……正直、本当にあるとは思ってなかったがモニターの中の人は本気で言っているらしい。
「……でもここには俺一人しかいないんだぞ!? 何する気だよ!」
周りを見回しても俺以外の人の影は無い。
というか普通に何も無いため、俺の声が反響するだけだ。
『まぁそう慌てるな。今から君には──』
中の人がもったいぶったようにそこで言葉を区切ると、声高に言った。
『僕と宿題をしてもらう!』
は…………? はい……?
いやにふんぞり返った態度の中の人は、多分小学生くらいであろうことがよく分かる言葉遣いで続けた。
『実は夏休みでね、僕は算数が苦手だ。特に面積や体積を求めるのが! あんなの、社会に出たらなんの役にも立たないのになんで学ぶんだ? 不必要な情報ばかり覚えなきゃならない……ああ、本当に僕は不幸だ!』
中の人は両手を盛大に広げ、おいおいと嘆く。
……これ、親御さんは知ってるんですか? お宅のお子さん、見ず知らずの男子高校生を知らない部屋に入れた挙句、宿題手伝わせようとしてますよ?
なんだか哀れみの視線を向けてしまいそうだ。
厨二病になり掛けてる、いや既になってるんだろうな。こんな年で可哀想に……。
もう少し経てば黒歴史になるであろうことは明白で、この子の将来のためにも俺はそれとなく言った。
「えっと、でも勉強は自分でやらないと駄目だろ? というかなんで俺なんだ?」
『丁度良かったから!』
はいアウトーーーーーーーー!
見ず知らずの人間に『丁度良い』なんて言っちゃいけません!
それ以前に誘拐だからな、これ! 俺が連れて来られてどれくらい経ってるか知らないけど!
「はぁ……どうしても教えないと駄目か?」
呆れてものも言えない、とはこういう事を言うんだろうな。
というか君が夏休みなら、俺も夏休みなんだよ。ただ部活はあるんだけどな、俺のバッグどこ!?
『……』
小学生らしき中の人は黒い背景、もといポメラニアンっぽい画像に変える。
あ、これパソコンだな。どっかに小型カメラとか仕込まれてるやつ。
『駄目……?』
そっと中の人は仮面を外す。
おいおいおい、顔隠さなくていいんですか??
あ、でもよく見ると可愛い。
短く切り揃えた黒髪は勿論、丸い瞳が悲しそうに伏せられ……って泣くな泣くな! 男の子だろ!
「あー、もう分かったよ。どこが分からないんだ?」
さすがに泣かれるのは本意ではないし、何より俺の寝覚めが悪い。
誘拐された身でこんなこと思うの、多分俺くらいだろうな。
自分のお人好しさにほとほと呆れつつ、俺は
『え、えっとね』
恥ずかしそうにそこで言葉を切ると、不意にモニターに映らなくなった。
「なんだ……?」
ポメラニアンの背景がそこにあるだけで、人の姿は見当たらない。
嫌な予感がするな、と思っているとまた機械音が響いた。
「お兄ちゃん!」
俺の座っていた背後の壁紙の一部から、やはり小学生くらいの男の子がにこにこと駆け寄ってきた。
手には算数、国語、社会、理科、英語、と必須科目であるノートや教科書類を抱えている。
……あの、わざわざこの部屋に入れなくても良くないですか。
終わったら親御さんはいないか聞いてみよう。きっと『お母さんやお父さんはお仕事』とでも言う可能性があるけど。
共働きって大変だな、とこの国の未来の行く末に思いを馳せながら、男の子が持ってきた冊子を開く。
終わったら遊んでやるか、と思いながら俺は男の子と額を合わせて問題の解き方を教えた。
二次創作で見る例のアレ 櫻葉月咲 @takaryou
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