巧（たくみ）が帰ると一枚の紙があった。 それは紛れもない愛しい人の字で、けれど少し雑なものだった。 不思議に思いつつも、いつも通り子供たちのお迎えに行くと双子のうちの一人から駄々…

敦生（あつき）はこれから住む家の内見のため、とあるマンションの一室に通されていた。 元より楽しみで早く住みたい、と思っていた場所だ。 しかし隣りにいない『恋人』のことを考え、一…

俺は目が覚めると、真っ白な部屋の中にいた。 箱の内側ってこんな感じなのかな、と言うほど白いそこにいきなりモニターが現れる。 仮面を付けた人間は、やや高い声で言った。 『おめで…

稜（りょう）と鈴葉（すずは）は自宅のデッキでのんびりと隣り合わせで日向にあたっていた。 不意に鈴葉が携帯の画面を向け、黒歴史であり思い出したくもない感情が稜の心を駆け巡る。 あ…

文香（ふみか）は恋人である達輝（たつき）と同棲している。 リビングでくつろいでいると、深刻そうな顔をした恋人の姿が見えた。 どうやら父親から『アメリカに来ないか』と誘われたよう…

葉（よう）は『ヤヨイ・スズキ』という服飾系の事務所に所属していた。 小学生の頃からの夢だったファッションデザイナーの道に進んで二年目。 去年は参加出来なかったパリコレに向け、制…

六花（りっか）は幼い頃から様々な色をした毛玉が視えた。 それは人の本音で、この世の誰しもが毛玉を背後に従えている。 付き合って三年目であり、同棲中である昌人（まさと）には言って…

達仁（たつひと）はベッドの傍でくずおれていた。 自分の不注意で大事な眼鏡を壊し、あまつさえそれは大事な人──久司（ひさし）と出会ってすぐの頃に貰ったものだった。 それは命にも変…