KAC20243「積み上げたのは夢か、呪いか」

地崎守 晶 

積み上げたのは夢か、呪いか

 泥のように眠った休日の朝。

 鉛のように重い体を持ち上げると、目に入るのは箱、箱、箱。カラフルなパッケージが見えているのはまだいい。段ボールの梱包のまま積み上げられた山がいくつもあり、独り暮らしの四畳半は壁の色も見えない。

 箱に埋め尽くされている。

 仕事の気分転換にと手を出したら、のめり込んだプラモデル。当時大きな失敗をして、始まったばかりのサラリーマン人生に行き詰まっていた。新卒で入った会社を辞め、しばらく自宅で無気力に過ごしていた。

 そんな時寝付けなくて気紛れに点けたテレビでやっていた、流行りのロボットアニメ。ボロボロになりながら仲間を守る主人公の機体が何故だか泣きたくなるほど目に焼き付いて、翌朝初めて自宅から出た。その主人公の機体の組み立てキットと、ニッパーを一丁。持ち帰る時、言いようのない高揚を覚えた。

 社会人になってからはまった趣味だったので、自分で稼いだ金から自由になる金を注ぎ込んで……時に手をつけてはいけない金まで注ぎ込んで買い漁った。

 メンタルを立て直し再就職を目指す最中、説明書を頼りに自分の手で部品を組み合わせ、一つの完成形を作る行為は、自分の未来が見通せない今を救ってくれるような気がしていた。

 現実に立ち向かいながら、プラモデルを組む。そうして、先の見えない転職活動をようやく走り抜けた。

 どうにかこうにか社会人として地道に働き始めると、だんだんプラモデルを広げて組み立てる時間がなくなっていった。しかし一度のめり込んだ欲は消えなくて、買うだけ買って手をつけていない箱が部屋に溢れていった。

 気がつくと、箱に部屋を占領されていた。仕事以外は、その隙間で寝て起きるだけの日々。いつの間にか、どこから……何のプラモデルから片付けたらいいのかも分からなくなっていた。

 箱の山を見る度に、かつて感じた高揚よりも、罪悪感と倦怠感しか感じなくなっていた。人生が終わる前にこの箱を全て崩せるとは、思えなくなっていた。


 仕事が軌道に乗り、要領を掴むるようには人並みよりも時間がかかった。もう若くはない。部屋に積み上げのは夢ではなく呪いであり罪になってしまったかもしれなかった。

 けれど、人生で今だけが、一番若いのだろうと感じた。

 掴んだコツで余裕を作ると、ささやかながらまとまった休みを取る。

 休暇の前日、会社の帰りに久しぶりに模型店に立ち寄った。

 積みを増やすためではなく、それに立ち向かうための武器を手に入れるために。

 目を覚ますと、真新しいニッパーを手に取る。山の一番上の箱を手に取る。

 贖罪を始め、ここからまた、明るい未来を組み立てるために。

 



 


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KAC20243「積み上げたのは夢か、呪いか」 地崎守 晶  @kararu11

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