002 箱の怪物カタカタ(2)
「やぁぁん、やっぱりおっさんと少女の組み合わせは最高ね。今日もいいモノ見ちゃったわぁ。ね、ハルカもそう思わない?」
「同意はするけど、ミルゴは僕の子だし、ニレイくんはナオの子だよね?」
カタカタを仕留め、何度もなんども感謝を告げる母娘を見送っていた二人のシステムのもとへ、高度を下げたホバーボードが二台、停止した。
運転していたのは、ウェーブのかかった黒髪をなびかせた妙齢の女ナオと、遊びのある金髪を流し王子然とした青年ハルカ。
どちらも浮遊都市ユキマツでは一般的な金色の瞳を持つが、今は眼前に端末のウィンドウを開いているため、電子の光が映り込んで若草のような色あいになっている。
ホバーボードに描かれたロゴマークはユキマツ市立システム開発センターのもの。身に着けた、職位を示す深緑のスカーフにも、同じロゴ。
二人はそれぞれ、未来守るシステムの
「やぁね、ニレイはあたしのダーリンよ……――きゃあぁぁ、だぁりぃん! かっこよかったわよぉ」
「やめろ」
ホバーボードから降りるなり四号――ニレイに抱きついた
結果二人が間近で向かいあうかたちになり、ハァと諦めの息を吐いたニレイは、目深に被っていた制帽をナオの頭に乗せた。
あらわになった鋭い目つきはすぐ、ぼさっとした前髪に隠れる。が、手を伸ばしたナオがニコリと蠱惑的な笑みを浮かべながら整えてやった。
まるで恋人のような空気感。いつのまにか集まっていたギャラリーから、きゃあっと黄色い声があがった。
その横を、顔いっぱいに喜びを浮かべたミルゴが、自分の開発者のもとへ小走り気味に通り過ぎていく。
少し出遅れたのは、つけ直したクロスタイの角度を調整していたからだ。
「ハルカ、ハルカ。ミルゴ、今日も人間を救った」
「ん、偉いね。よく頑張りました」
「うへへへ」
制帽の上からぽすぽすと頭を撫でられ、ミルゴの頬がだらしなく緩んだ。それをハルカが慈しみの目で見つめるので、またさらに緩む。
こちらのやり取りを凝視していたギャラリーからは、おおっとどよめきがあがった。
未来守るシステムとその開発者の触れあいは、なかなか絵になる。浮遊都市ユキマツの名物なのだ。
「ミルゴさま、ハルカさま、ワタクシめも頑張りましたヨ!」
「そうだハルカ、そろそろクロスタイを交換しないとかも」
「あれ、もう?」
華麗に無視されたカラス頭は「しゅん」と気持ちを口にするが、すでに真面目な話題を始めているミルゴたちには届かない。
同業者であるオウム頭が、気休め程度に「不憫」と呟くばかりだ。
そんなオウム頭の主とその開発者もなかなかの曲者なので、ただの傷の舐めあいである。
「四号はいつもミルゴにコアの破壊をやらせるんだよ」
「俺のは痛えんだよ。知ってるだろ」
見せつけるように無精髭を撫でながら、ニレイはミルゴを睨んだ。
「これは開発者の趣味であって俺の無精じゃねえ」
「やだダーリンったらあたしの趣味を理解してくれてるのね」
たまらないというふうに押しつけられた、ナオの豊かな肢体の悩ましさ。地の文にまでツッコミを入れる心労はいかほどか。
次から次へと降りかかる苦難に彼はふたたびため息をついた。
「わかってるならやめろ」
「四号、さっきからなんの話?」
「……なんでもねえよ。おいナオ、そろそろ帰るぞ」
「そうねダーリンあたしたちの愛の巣へ!」
んまっと唇があわさる。
ふたたび悲鳴のような歓声があがり、ハルカは「お熱いことで」と茶々を入れた。
「さて、僕たちも帰ろう……いや、研究所に寄ってクロスタイをもらわなきゃかな」
「ううん――」
カタカタにとどめを刺したミルゴのクロスタイ、そしてニレイが使うことを嫌がる無精――ではない顎髭。
人の目にはわからないほどの鈍い光沢を持つそれらは、カタカタの欠片を加工した金属だ。
カタカタと同じ物質だからこそ、カタカタに通じる金属。そんな特別な
「カタカタ注意報はまだ解除されてない……ミルゴ、まだ頑張れるよ」
「俺はパス」
「仕事よりあたしを選んでくれるダーリンが好きぃ」
「やめろ。残りのカタカタは小規模ってだけだろうが」
晴天のちカタカタ。
浮遊都市ユキマツの上層部が頑なにカタカタを科学的な現象と発し続けるのは、不安の裏返し。
怪物は、怪物。
どれだけ科学が発展したとて、
それでも、
「ん、ミルゴ。この都市のみんなを、守りにいこうか」
ミルゴ ナナシマイ @nanashimai
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