トラウマ神社が秘する三つの宝箱

柴田 恭太朗

大切な箱について説明するからよく読みなさい

 お前に書き残しておくべきことがある。

 昨夜出奔した息子のお前にだ。


 わがトラウム神社には大切な三つの箱がある。


 一つ目が賽銭箱。

 これは霊験あらたかな当社の貴重な収入源だ。たみが当社が祀る神の力を忘れて久しく、賽銭はわずかとはいえ大切な箱の一つには変わりない。ゆめゆめおろそかにすることなかれ。


 ちなみにとは本来という意味である。この際、覚えておくとよかろう。


 二つ目が防災箱。

 霊験あらたかな当社ならではの箱だ。三十年以内に来るといわれ続けている災害に備えて、防災食やら飲料水やら防塵マスクやらの避難グッズを詰め込んである。もともとマスクは火山噴火対策だが、必要とあらば花粉用に使うのも自由だ。


 ただし、お前が誕生する前から入れっぱなしのアイテムもあるから、ときおり中身を見直すことをおススメしたい。防災グッズには流行り廃りがある。


 三つ目が尾箱おばこ。最も肝心な箱だから心して読みなさい。


 前の二つと異なり、この箱だけは決して開けてはならない。

 もし厳重に封がなされた箱を開けたなら、お前はそこにナマズの尾、地龍の尾、水龍の尾を目にすることだろう。ナマズは地震を、地龍は火山噴火を、そして水龍は水害を司る神だ。それぞれの尾を引くことで天災が発生するスイッチになっているから、絶対に触れてはならない。


 同じ箱が全国の要所となる神社に祀られ、大切に守られてきた。

 当社は関東を担当する由緒正しい神社というわけだ。


 ところがなぜか計ったように六十年から百年周期で、お前のような天邪鬼あまのじゃくが当社の跡継ぎとなる。その天邪鬼が尾箱の霊験を疑い、尾を引いてしまうのだ。


 前回、ナマズの尾を激しく引いた者が現れたのは大正十二年九月のこと。

 結果は分かるだろう?


 私が財政事情からネーミングライツをトラウムグループに売り、民からトラウマ神社と後ろゆびされたことを嫌って家を出たお前だからこそ気にしておる。


 よいな? 尾箱だけは決して開けることなかれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

トラウマ神社が秘する三つの宝箱 柴田 恭太朗 @sofia_2020

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ