凸凹JKコンビによる贅沢な箱と大切な箱について

木元宗

第1話


「はい。今月からこの時間を担当します私萩原と?」


「田中です」


「とまあそんな女はいない私萩原によるワンマンショーな昼休みのラジオを始めます」


「じゃあ私帰るね」


「座りなさいよ冗談なんだから」


「別に言っただけでじっとしてるし、校内放送で飛ばす冗談にしては刺々しいんじゃない?」


「美しい花には棘があるものよ」


「ああ、あのバラバラのやつ」


なにひとを八つ裂きにしてるのよそれを言うなら薔薇ばらでしょうが」


「いやそこまで攻撃的な意図では言ってない」


「全く適当なんだから」


「あなたこそがね?」


「仕方が無いからトークテーマを用意してあげようじゃない」


「まあ別にいいけれど、どうせ話してる内に無視するんで」


「ズバリあなたの羅綺千箱らきせんばこ巾箱之寵きんそうのちょうは?」


「食い気味に言わないで。っていうか何? その漢検みたいなお題」


「知識ひけらかし大好き女であるあなたの為に用意したわ」


「ありがとう虚言と暴言の羅綺千箱らきせんばこ


「あらお上手なお返し。でも何人に伝わったかしら? 意味の無い贅沢やそれを戒めるという意味を持つ言葉を羅綺千箱らきせんばこ、肌身離さず持ち歩く非常に大切なものを指す言葉に巾箱之寵きんそうのちょうがあるけれど、つまり私は言動を注意され、あなたはこんな難しい言葉を説明も無しに使った事により、矢張やはり知識ひけらかし大好き女であると証明された訳だけれど、痛っ、今私、この田中とかいう平凡極まり無い名前の女に、利き手の甲をシャーペンで突かれました。暴力です。廊下に出て警報ボタンを押してやる」


「火事って勘違いして駆け付けた先生にあなたが怒られて終わりだよ」


「まさにあなたにとっては対岸の火事ってね。田中」


「上手いけれど急な呼び捨て何?」


「答えなさいよ。この二つの箱について」


「痛かったんだね。ごめんね。先に好き勝手やったのはそっちなのにね。うーんじゃあ、羅綺千箱らきせんばこから行こうか? 最近ついやっちゃった浪費とか」


「どうせまたバイト代をソシャゲのガチャに突っ込んで爆死でしょ」


「今月はまだ三万円だから掠り傷」


「博識なソシャカスってキャラがなぞぎるわよあなた」


「まだまだ乾燥への油断がならない季節だからと結構いい入浴剤セットを買ってみましたが、普段そういったものを使わない上に結構いいお値段なので、勿体もったい無い気持ちがまさって使えていません」


「ガチもんの羅綺千箱らきせんばこじゃない寄越しなさいよ」


「大好きだもんねえお風呂グッズ。去年の修学旅行もさあ、持ち込んだ入浴剤使いたいからって温泉行かないで部屋のユニットバス占領して、一人で長風呂楽しんでたでしょ」


「温泉に入れてもいいなら一緒に行ってたわよ」


「いい訳無いから部屋に置いて行きなさいって言ったのに嫌だって一人で部屋に残ったんでしょ。ほんとにマイペースなんだから」


「修学旅行だからって大量の他人とお風呂に入るっていう異常事態は嫌い」


「恥ずかしがり屋さんだよねえ」


「そりゃあ片っ端からコーヒー牛乳の瓶割りながら全裸で脱衣所走り回ってたあなたに比べれば」


「大嘘並べないでくれる校内放送で。そんな内容を信じる人はいないだろうけれど、そんな発言を平然と放つ人間が放送部にいるってネガティブな印象を与えるんだけれど」


「そう言えば何で今月のお昼の放送係、急に私とあなたになったのかしらね。前日まで別の部員で予定が組まれてたのに」


「んー、体調不良なんじゃない? 今度会った時にけばいいよ。萩原さんの羅綺千箱らきせんばこは?」


「あなたの巾箱之寵きんそうのちょうがまだよ」


「楽しい事は最後に取っておいた方が面白いじゃない」


「一理あるわ。そうね、一昨日、ケーキを焼いたわ」


「それは羅綺千箱らきせんばこじゃないでしょう。立派な趣味だし、元々お菓子とか料理作るの好きじゃない」


「まあそれはそうなんだけれど、たまにはと普段好んで食べない種類をやってみて、いざ完成したらやっぱり食べる気にならなくて冷蔵庫に放置して来たわ」


「ええ勿体無い。お菓子って手間かかるのに」


「慣れない種類を作るという目的は達成されているからいいのよ。好みでないだけで味が悪い訳では無いから、気が向いたらその辺の奴に配るわ。作ってもう二日も経ってるから、いい加減処理しないと傷んで来るしね」


「さっきのお風呂の話と言いほんとにマイペースって言うか……。過程の為なら結果を顧みないよね」


「衝動的に生きてるからね。話し口調はクールに感じるかもしれないけれど」


「まあそのギャップが萩原さんの素敵な所なんだけれど」


「あなたがいかにも優等生みたいな態度をしてるけれど、実はシャーペンで人を刺す暴力的な所があったり、毎月のようにガチャで爆死したり、全裸で走り回ってたりね」


「全裸のくだりは真っ赤な嘘だね」


「暴力的な浪費家という点は認めるのね」


「偏向報道が上手い……」


「将来はこれで食って行こうと思ってるわ」


「将来の夢が週刊誌の記者か、自称暴露系だの便乗お気持ち系動画で稼ごうとする配信者って何」


「そして大女優になったあなたをつけ回すわ」


「いや私の将来まで勝手に設計しないで。私はもっとこう、平凡で堅実な仕事に就こうと思ってるんだから」


「意味不明な建造を繰り返し市民の反感を買い占める箱物はこもの行政大好き役場の職員とかね」


「意地でも茨の道を歩かせたいんだね。私に」


「嫌ね。ツッコミポイントの提供よ。あなた得意でしょう? そういう重箱の隅を楊枝でほじくるような指摘。それにあなたにはケチ臭い言動は控えて私のようにおおらかに、そう、同じ重箱は重箱でも、重箱の隅を杓子で払えって思ってるわ」


「えー重箱の隅を杓子で払えとは、余り細かい点まで干渉せず、大目に見よってたとえですね。重箱の隅を楊枝でほじくると逆の意味と覚えると使いやすいです。って、私とあなたで何回重箱って言わせる気なのよ重箱渋滞になってるから。……いやドヤ顔しないで。それにその言葉って楊枝でほじくるの方よりマイナーだと思うし、それを説明無しでいきなり使うって、私の事を言えないぐらい知識をひけらかしてると思わない?」


「思わない」


「クソ、〝ひけらかしてるよ〟って断定で言えばよかった」


「放送中にはしたないわよ」


「そろそろ一曲流すつもりでいたからいいんです。放っておくとずっと喋るんだからある事無い事……」


「まあつまり私達とは、似た者同士って事ね」


「全然違うよ」


「は?」


「はいもうそろそろオープニングトーク締めまーす。最後に、私とあなたの巾箱之寵きんそうのちょうは?」


「実物を持って来ているわ。リスナーの皆さんには見えないけれど、放送室のテーブルに載せてやりましょう。じゃじゃん。一昨日偶然気紛れに焼いた、不必要なケーキの入った箱」


「私も実物があるので同じくテーブルに載せました。使いこなせず置いておいた、結構いいお値段の入浴剤セットです」


「あら、どうしてそんなものを学校に持ち込んでいるのかしら。プールに入れるにしても濃度が全く足りないわよ」


「萩原さんこそどうして好みじゃないケーキを箱まで用意して学校に?」


「今日がたまたま誕生日だったあなたに寄越す為よ。私は嫌いだけれどあなたは好きでしょ。甘ったるいチョコレートケーキ」


「うん。私も萩原さんにプレゼントしようと思って、この入浴剤を持って来ました」


「あら奇遇」


「誕生日同じだからね私達」


「私は直前まで何も聞いていなかったけれど、急遽放送係が私達になったのって、もしかしてあなたの差し金?」


「重箱の隅を杓子で払えだよ」


「分かってるじゃない。さっさとケーキを食べなさい。焼いたの一昨日だから、今日中に食べ切らないと傷むわよ」

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凸凹JKコンビによる贅沢な箱と大切な箱について 木元宗 @go-rudennbatto

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