フワリハラリ

@ramia294

第1話

 何処までも暗い空に、瞬く小さな星の光。

 窓から奪われる部屋の温もり。

 途絶える事のないストーブの小さな赤い炎。


 オイルの匂いと、

 白く光る蛍光灯。


 夜明けまではもうすぐ。

 待ち遠しい僅かな時間。


 黒くて小さな箱から、流行歌。

 それはまだ、僕には手の届かない恋の歌。


 東の空が、燃え始め。

 ストーブの炎と競い合う。


 星が今夜の別れを告げて、

 冷たい風が、空を青と白に塗り替えていく僅かな時間。

 新しい朝の始まり。


 3月も半ばなのに、

 いつまでも寒い、奈良の都。

 雪の降る古い都。


 窓から見える若草山にも

 白い雪がつもり、

 焦げた山肌を隠していく。


 土手の桜も

 凍える風に

 堅く蕾を閉じ、

 

 待ち侘びる優しい温もりの季節。


 今年も僕の部屋に、

 届いていた荷物。

 小さな箱がひとつ

 開く僕。


 中には、桜の花びらが一枚と

 暖かい春風。


 それは、届いた春の便り。

 箱から溢れ出る春風に乗り、


 フワリフワリ


 桜の花びら。


 窓を開く僕。


 窓から外へと春風に乗り、

 花びら、


 フワリフワリ


 立ち止まっていた、季節が動き出す。

 桜が、いっせいに咲き始め、


 春のひと時

 儚く、白い幻想が始まる。


 フワリフワリ


 川の中の鯉が、


 ユラリユラリ


 流れる川の音も半音上がる。


 今は、空っぽの

 小さな箱を抱えて、

 花びらを追う僕。


 フワリフワリ


 小さな橋の上、

 やはり花びらを追う君。


 春に目覚た、桜の花。

 冬の間に閉じていた蕾の見ていた夢を落とし始めます。


 ハラリハラリ


 桜の蕾の夢を

 僕は拾い、

 箱の中にひとつひとつ丁寧に詰めていきます。


 ハラリハラリ


 それは、心躍る冒険の旅物話。

 それは、甘く切ない恋物語。

 それは、明日への希望の夢物語。


 今年も届いた春の便り。

 桜の花びらと春風。


 小さな橋の上の君と僕。

 春が無事届きましたと喜びを分かち合う。


 僕が集めた桜の蕾の夢を

 一緒に読みませんか?


 頬を桜色へと染めた君。

 風に乱れる長い髪を押さえる白い指。


 頷く彼女。


 今年も届いた春の便り。

 箱の中には、いつもの花びらと春風。


 今年の箱には、


 僕の初恋も詰められていました。


 


 


 

 

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