走れエロス

 芥川竜之介の「妄に道徳に反するものは経済の念に乏しいものである」という言葉が思い起こされる物語です。
 社会人になったというのに「青春を取り戻す」ことに執心する非モテ主人公の姿は痛々しく滑稽でありつつも、どこか気魄を感じさせます。
 その行動がほぼ一貫して不経済であるところ(BMWの魅力には屈していたが)が主人公を主人公足らしめているのです。
 芥川は「妄に道徳に屈するものは臆病ものか怠けものである」とも言っています。
 その点この物語の主人公は道徳に屈しません。
 道徳によって与えられる時間と労力の節約という恩恵に甘んじることを良しとせず、実ることのない横恋慕を抱いて奔走する様は逞しい強者の姿であり、読者に勇気を与えてくれるでしょう。
 ちょっとキモいけど。