第27話 エピローグ

妻が亡くなって、3カ月が過ぎた。

季節は夏になり、茹だるよう暑さの中、私は仕事に追われている。

それは妻が亡くなる前と少しも変わらない。


変化があったのは休日だ。

「もっと世の中を知った方がいい」と、大介の勧めで、奥野がボランティアでしている悩み相談を手伝っている。

法律相談というほど堅苦しいものではなく、日常のトラブルを奥野が聞きアドバイスをする。私は奥野と一緒に悩みを聞き、聞いた内容をパソコンに入力することだ。


痴話喧嘩から警察の介入が必要な場合や、中には犯罪に手を染めてしまった人が助けを求めてきたこともあった。

大介の言うとおり、私は苦労知らずなところがあり、いろいろな人と接することで、考えさせられ、勉強になった。


「男ヤモメ同士仲良くしましょう」と奥野はよく飲みに誘ってくれる。

私はずっと聞きたかったことを飲みの席で聞いてみた。

何故、私によくしてくれるのか?

奥野の働きで妻の事故を起こした相手側と示談が纏まり、マーくんこと堺からも賠償金をもらった。その報酬額を奥野は実費だけでいいと受け取らなかった。

結局その金は犯罪被害者の会に寄付した。

ボランティアの手伝いという理由だが、休みの日に1人にならないようにするための気遣いだということも気付いていた。


「妻の、由里の夫だから、私によくしてくれんるですか?」と聞くと、笑いながら「そうですよ!由里ちゃんは僕の永遠のアイドルですから」と言った。

「もし、由里ちゃんが生きてたら、きっとあなたを助けてくれって言ってたと思うんですよ、だからかな。

でも、それだけじゃない、山下さん、あなたが魅力的だからですよ」とニヤケ顔で肩を叩いてきた。

「冗談はいいですよ」

「私から冗談をとったら何も残らな~い」とおどけてみせた。

本当に弁護士ぽくないな、と心で笑った。

「まぁ、本当にあなたには魅力がありますよ、なんかほっとけないというか、力を貸したくなるというかね」

「それって魅力ですか?」と笑って返すと

「そうですよ。母性本能を擽られるというかね、由里ちゃんも、そんなところに惹かれたのかもしれませんよ。

あっ私はそんな気ないですよ」

「分かってますよ」

 

「しかし学生時代の由里ちゃん、本当に可愛かったな。今でも綺麗ですけど。

私ね、田舎の男子校出身で全寮制だったから女っ気が全くなくて、浪人時代も勉強ばっかりでしたし、初めて東京に出てきてバイト先で由里ちゃんを見かけたとき、東京には綺麗な人がいるなぁって目を奪われたんですよ。

結局、圭介に持ってかれましたけど。あっ圭介とのこと知ってます?」

「知ってますよ」

「あいつ、ずるいんですよ、あの顔で成績優秀でしょ。俺ら同じ大学の同じ学部だったんですけど、よく女の子に圭介を紹介して欲しいって頼まれてましたよ。俺が気になってた子からもね。

結局、誰にも靡かなかったけど。

成績だって、あいつの方が上だったし、あいつが司法試験狙ってたら、俺より先に合格してましたよ、ホントに。あいつは早く働きたかったみたいでしたけど。」

宮部は一途に由里を思っていてくれたようだ。少し妬けるが、由里は幸せだったんだな。と安心もした。


もう一つ聞きたかった。奥野の奥さんが亡くなったとき、由里は独身だった。何故、由里を口説かなかったのか。

聞こうと思ったが、愚問だということに気づき、やめた。奥野は亡くなった奥さんをずっと愛している。それは私も同じだ。


そんな事を考えてると、入り口の方から、長身のイケメンがやってきた、宮部だ。

「いいんですか?今日は土曜日ですよ?」と私が聞くと

「子供が中学受験控えてて、もうすぐ模試なもんだから、家にいると邪魔にされるんですよ」と笑った。

「嫌だね、幸せ者は。

そうだ山下さん、合コンやりましょうよ!合コン!とびっきり可愛い子一緒に口説きましょ」と言い出した。

その気はないことは分かっているが、

「いいですね!競争しましょ!どっちが口説き落とせるか」と応えた。

「よし決まった!セッティングしましょう!

圭介、お前は呼ばないからな」

「わかってるよ!」と笑いながら、宮部は突っ込みを入れた。


由里ちゃん見てる?君のお陰で新しく良い友達ができたよ。

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妻の秘密 うらし またろう @teketeke0306

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