事故物件
sorarion914
シェアハウス
「ここは駅からも近いですし、スーパーやコンビニも近くにあって便利ですよぉ」
やたらと愛想がいい不動産屋の男に、俺は若干引いていた。
相場より家賃が安いのは、ここが
それは分かっているので、なにもそこまで必死になって売り込まなくてもいいのに……
こっちとしては、少しでも安く駅近物件に住めればそれでいいのだ。
事故物件だろうが、なんだろうが気にしない。
自分には霊感のれの字もないのだ。
「あー、イイっすね」
俺はそう言いながら、玄関から続く廊下の途中にある物置の扉に手を掛けた。
「こんな所に収納スペースあるんですか」
そう言って開こうとした俺の手を、不動産屋の男は何故か止めて「ええ。収納スペースがたくさんあるのが売りの1つです」と言って、さりげなく引き離した。
「?」
首を傾げる俺を尻目に、「こちらがリビングダイニングで、ここがキッチンになります。正直、この間取りと広さで月10万以下は本当に掘り出し物ですよ」と言って笑いかける。
「こちらは寝室になります。ベッドも余裕で置けますよ」
「へぇ」
俺は中に入ってクローゼットを開けようとした。
すると不動産屋の男は慌てて俺の腕を掴むと、「隣にもう一つ部屋があります。そちらは客室にしてもいいですし、趣味のお部屋にしてもいいと思いますよぉ」とクローゼットの扉から俺を遠ざけた。
「……」
隣の部屋は先程の部屋より若干狭いが、それでも十分な広さがある。
こんなに広くて本当に月10万以下とは――
事故物件とはいえ、その内容が気になった俺は、思わず聞いた。
「人が亡くなったと聞きましたが、それは……自殺ですか?病死ですか?それとも」
まさか殺人?
不動産屋の男は困惑したように頭をかくと、「まぁ……色々ですね」と答えた。
「色々?色々とは?」
ひょっとして―――
1人じゃないのか?
不動産屋の男は奇妙な笑みを浮かべると、先程開けようとした廊下の収納扉の前へ俺を連れていった。そしてゆっくりと扉を開く。
中には、不動産屋の男がいた。
「私はここで発見されました」
「え――――?」
「ちなみに、その方は寝室のクローゼットで」
そう言われて俺は振り返りギョッとした。
いつの間にか背後に男が佇んでいる。
「そちらの方は隣室のクローゼットで」
更にもう1人、背後に男が立って、じっと俺を見下ろしている。
「な、な、な……」
言葉にならない声を出して、俺は後ずさりした。
慌てて玄関に向かって走るが、いきなり目の前でトイレのドアが開いて、そこから更に男が2人姿を見せて、俺は柄にもなく悲鳴を上げてしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
不動産屋の男は静かに笑うと、言った。
「どうです?一緒に住んでみませんか?」
事故物件 sorarion914 @hi-rose
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