あとがき

 この話はもともと「西遊記の番外編」をあれこれ考えたり、「ハムレットのパロディ」を検討するうちにできたものです。


「西遊記」については子供向けの原作や「鏡の国の孫悟空」(東洋文庫)を読んだことがある程度でしたが、自分はもっと滅茶苦茶にしたいと考えて、小学校の卒業文集に三蔵法師たちが入り込む「卒業文集の国の孫悟空」という線で構想を練っていました。しかし、どうにも踏ん切りがつかず「掌編にすれば気楽に書けるのでは?」とずっと考えていましたが、どうにも書けないままでいました。


 一方、「ハムレット」の方は太宰治の「新ハムレット」、大岡昇平の「ハムレット日記」、野阿梓の「兇天使」など、先行するパロディ、番外編、翻案作品が多く、自分もいつかこの種の作品を書いてみたいと考えていました。登場人物全員が酔っ払っている「泥酔の城」という作品を書きかけたのですが、これもうまく進めることができません。


 そのうち「毎度、魔女が変な薬を持ってきて登場人物を混乱させる」というシットコム的な枠組みで構想し直しましたが、これも冒頭のイメージのみで、先を進めにくいものでした。


 やがて「二つのアイディアを一つにしてはどうか」と考えましたが、いざ手を付けてみると「孫悟空が活躍すると、敵がすぐに殺されてしまう」という難題が発生し、かなり悩みました。


 とにかく孫悟空を大暴れさせないようにしないと、物語が進みません。しかし、最初から最後まで出てこないという訳にもいきません。また、三蔵法師や猪八戒、沙悟浄もそれなりにバランスを保ちつつ、それぞれの性格に見合った発言や活躍や失敗をする必要があります。


 このあたりは同じ設定で始めたとしても、百人の書き手がいれば百通りの回答が出てくるものと思われます。本作では西洋風の悪い魔女の助太刀によって、かなりの場面でうまく辻褄が合うようになり、予想外にコメディ的な要素も加わり、いわば便利な接着剤のような役割を果たしてくれました。また実際に書き始めると、両作品のキャラクターが違和感なく、すんなりと同じ物語に溶け込んでしまったのも意外でした。


 城が舞台になるため、参考に観直した映画「ヤング・フランケンシュタイン」や「カリオストロの城」、P.G.ウッドハウスの小説(ブランディングズ城シリーズ)からの影響もあります。


 私は物語性の強い作品をこれまでほとんど書いていませんでしたが、本作は「ハムレット」の筋をなぞりながら、導入、展開、クライマックス、結末、とオーソドックスな流れに乗って、最後まで書ききることができました。


 連載中、少しずつ読んでくださった読者の方に感謝いたします。また「後書き」を先に読んで、さあこれから読もう、と考えている皆様にも感謝します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エルシノア城の三蔵法師とその一行 @-me

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画