優良物件

kou

優良物件

 リビングルームは広々としたスペースに配置され、大きな窓からは自然光がたっぷりと差し込んでいた。

 不動産社員の吉田ひろしは若いカップル・横山夫妻に笑顔で語りかける。

「どうですか築15年の中古マンションですが、駅に近くスーパー等の商業施設にも近い。このエリアにしてはとってもお得ですよ」

 横山まことは3LDKの間取りをまじまじと眺め、大きくうなずいた。

 広々としたリビングルームに明るいダイニング。バルコニーからは贅沢な景色が一望できるのだ。誠は興奮を抑えきれない様子で、妻である久美くみに語りかける。

「すごくいい部屋じゃないか。それに安い」

 しかし、久美は肩を重そうに下げ表情を悪くしていた。

「誠さん。肩が重いの……」

 誠は怪訝な顔で、久美の肩に手をやる。

「どうしたんだい急に」

 久美は突然口元を両手で覆うとキッチンの流しへと駆けだした。

 そして、激しく嘔吐する。

 誠は久美の元に駆け寄ると、彼女の背中をさすりつつ、キッチンのシンクへと吐瀉物を流していく。

 誠は思い当たる。

 久美の妊娠だ。

「まさか久美、つわりなのか?」

 誠は初めてのことだが、子供ができたことを素直に喜んだ。

 だが、予想に反して久美は青白くなった顔でうなだれた。

「……違うの」

 久美は否定し、博の方を問い詰めるように見る。

「この部屋。何か隠してませんか?」

 博は必死に首を左右に振った。

「そ、そんなことはありません。この部屋で女を騙して自殺に追い込んだ男が、密室にも関わらず騙した女の髪の毛で首を絞められ。吐血どころか胃や肝臓、腎臓、膵臓等の内臓を口から吐き出して床はおろか、壁や天井までナメクジの様に這いずり回った血痕があったなんて絶対ありません!」

 脂汗を流しながら言い切った博に、横山夫妻はジト目で見る。

 博は別の物件を提案したが、夫婦は不動産業者そのものを変更する。


 ◆


「否定したのに、何で事故物件ってバレたんでしょう」

 博は仕事場の先輩に相談するが、先輩は呆れた顔をした。

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