最終話 また、カプセル泊まりたい。

 「ダメ川警視。あとの事は、大船に乗ったつもりで、このスーパードクターNにま・か・せ・て・ね!」


 「は、はい……」

 (こいつはなんなんだ? 病院出るとふざけてばかりじゃないか?)


 さおりさんが退院して3日後。

 俺とくるみは帰郷する為、別れを惜しみ事など微塵もない熊本医師に駅のホームで見送られていた。

 駅の構内に入るのには入場券が必要だが、もちろんその微々たる費用も俺が支出したのにも関わらず、熊本医師はおちゃらけていた。

 そんな中だが、嬉しい話もあった。


 「春男、さおりさん昨日、お母さんと風呂上がりにカレー食べたって」


 「そうか! 良かったな!」


 「でもおかゆだったって。胃の方はもう少し慣れさせないといけないみたい」


 「そうね。だから、ウチの管理栄養士と相談してメニューをさおりさんとお母さんに渡しました。つまり、今回はダメ川警視は本当に出番がないどころか、お母さんを意味不明に怒らせただけです。そのゴリラ以下の手腕には感服しました」


 「…………」

 (改めて、蒸し返されるとトラウマ発動しちゃうぞ?)


 「じゃあね、眠子。あとはよろしくね!」


 こうして俺達は、まだまだ夏の焼け付く日差しが照りつける中、新幹線で帰郷した。


 後日、熊本医師から報告を受けたと言う警視総監からは、なぜか感謝の嵐。

 その会話一部の公開しよう。


 「徳川君、君のコミュニケーション手腕には熊本さんも大変感服したと仰っていた。ありがとう。今年度末の昇給、人事も期待しててくれ!」


 「とんでもございません! 私は目の前の事を全力で対応しただけです! ウホッ!」


 (…………)


 警視総監はお礼として、封筒に入った10万円を俺のスーツの上着ポケットに黙って入れた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 「とりあえず、夏休み終わったらアメリカに戻るね」


 大きな事件のない束の間の平和に飛び込んで来た驚愕のお知らせ。


 くるみは突然、本庁の俺のデスクにやって来た。


 「は? どう言う事だ?」


 「FBIが帰ってこいって」


 「…………そうか」


 「春男ありがとね。色々楽しかった」


 「あ、ああ。俺も随分くるみには助けられた……」


 短いやり取りだったが、くるみは本庁を後にした。

 そして、3日後の飛行機で、呆気なくアメリカに戻って行った。

 

 もちろん前日には別れを惜しんで、ウナギ屋にも行った。見送りにも行った。

 相変わらずのディスりも健在だった。だが、もうそれもしばらくは聞くことは出来ない。


 空港でのくるみの最後の言葉は「またカプセル泊まりたい」だった。


 「わかった!」と言う俺に対して、くるみはアメリカの挨拶と言い、頬にキスをして来た。


 そして、3日後。


 ネットのニュースを見ていた俺は、アメリカで発生した、民家立て篭もり事件の記事を目にした。

 【散弾銃男、わずか二時間で投降】


 もみくちゃになる犯人が、連行される姿の写真の隅に微かに写っていた日本人少女。


 紛れもなく、ネゴシエーターくるみだった。


 「帽子を被っていないじゃないか。そうか……帽子を被る必要がないくらいあっさりと解決に導いたんだな、くるみ」


 パンパカパーン!


 うん? メール?

 …………くるみ?!


 【年末年始は帰るから。あと、今日は手を洗った?】


 「…………」


 《完》




 あとがき

 読んで頂き、ありがとうございました。

 くるみちゃんも湿っぽいのは嫌いなので、最後はあっさりとさせて頂きました。


 一応、この物語は一区切りとさせて頂きます。

 

 そして私自身も、文学フリマの書き下ろし等以外は、投稿サイトでの筆を一旦置きます。

 『とりあえず、書きたい作品は書ききった!』

 と言う、後ろ向きではなく、前向きな選択ですから心配御無用です。


 また投稿する時はくるみちゃんの新作と決めていますから!

 ありがとうございました!

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ネゴシエ〜タ〜のくるみちゃん 拒食症を調査編 @pusuga

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